SONGS FROM THE WOOD / JETHRO TULL [ジェスロ・タル]
ジェスロ・タル『神秘の森~ピブロック組曲 』
01. Songs from the Wood / 大いなる森
02. Jack-in-the-Green / 緑のジャック
03. Cup of Wonder / カップ一杯の不思議~クリムゾン・ワンダー
04. Hunting Girl / 女狩人
05. Ring Out, Solstice Bells / 至高の鐘
06. Velvet Green / 優しい緑
07. The Whistler / 森の笛吹き
08. Pibroch(Cap in Hand) / ピブロック組曲
09. Fire at Midnight / 真夜中の灯
09. Beltane 【2003 Remastered Edition Bonus Tracks】
10. Velvet Green / 優しい緑 (Live)【2003 Remastered Edition Bonus Tracks】
初めてジェスロ・タルを聴いたのはNHK-FMで流れていたライヴ。伊藤政則氏がDJだったが、ヒョロヒョロと流れる奇妙な音が印象的で、それがジョン・アンダーソンが吹くフルートだった。中学生の頃に雑誌『ミュージック・ライフ』で見たジェスロ・タルの写真というのが、老人のような風貌のジョン・アンダーソンが短パンにハイソックス姿で片足上げてフルートを吹いているという白黒写真で、「これはきっとキワモノに違いない」と思ったものである。それに当時は「ロックにフルート」というのも違和感があった(後にキング・クリムゾン~プログレを聴いてからはそうした偏見もなくなったが)。
ジェスロ・タルは多様な音楽性を持っている。多様な音楽性を一つにまとめてあげているのがジョン・アンダーソンの唯一無比の強烈な個性であり、アルバムごとに異なるジェスロ・タルの音楽性は、その時点でのジョン・アンダーソンの興味や関心を体現しているのかもしれない。アルバムごとにカラーが違っているとはいえども、どの作品にも共通して感じられるのがトラッド/フォーク的な部分で、それが彼らに英国らしさを感じる所以だろう。そうしたトラッド/フォーク色がもっとも強く感じられる『神秘の森』(77年)の日本盤ライナーには「英国トラッド/フォーク的な方向へと大きくシフトチェンジ」とあるものの、トラッド/フォーク的な部分はこれまでの作品にも感じられたことであり、「大きくシフトチェンジ」という感じではない。
トラッド色の強い『神秘の森』だが、牧歌的ではなくロック色の強い作品でもある。「Hunting Girl」や「Pibroch(Cap in Hand)」のようにロックなギターとドラムに、フルートをはじめリュート、ホイッスル(「The Whistler」)などのトラディショナルな楽器がはいるという不思議なサウンドがこのアルバムの聞き所。これまでの難解で韜晦な歌詞とは異なり、「Jack-in-the-Green」(イギリスの May Dayの祭りで使われる伝統的なキャラクター)といった伝承や、森や緑など自然をイメージしたものが目立っており、この点でもトラッド的な部分が強く出ている作品となっている。なかでもアルバムのオープニングを飾るタイトル・ナンバー「大いなる森」はこのアルバムのエッセンスが詰まった名曲(ニュージーランドだけシングルとしてリリースされた)。冒頭のコーラスが印象的だが、コーラス以外のアレンジも凝っており、フルート・ソロへ向かって徐々に厚みを増していく楽器のアンサンブルも技巧的で素晴らしい。
この作品には正式メンバーとしてキーボードが2名クレジットされている。新たに加わったのがデヴィッド・パーマー(ディー・パーマーDee Palmer名義でソロ作品をリリースしている)で、タルのデビュー作から前作『ロックンロールにゃ老だけど』(76年)までオーケストラアレンジでクレジットされていた。この作品で感じられるアレンジ面での進化は、彼の正式参加によるところが大きいように思われる。「Hunting Girl」や「Ring Out, Solstice Bells」ではシンセが活躍しているが、これも彼の参加によるものだろう。特に「Ring Out, Solstice Bells」は転調や手拍子を使った変拍子のリズムが「いかにもジェスロ・タル」という感じで、最後の鐘の音まで一気に聴かせてくれる名曲だ。
ジェスロ・タルの最高傑作というと、まずは『ジェラルド』(72年)、次いで『アクアラング』(71年)か『パッション・プレイ』(73年)というのが順当だが、本作も捨てがたい。エレクトリック・トラッド・ロックの名盤である。2017年には40周年記念の5枚組(CD3枚+DVD2枚)がリリースされた。
2019-09-01 16:16
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