『クリスマス・ボックス』と『ゲット・イット・オン・ボックス』 [T.レックス]
『クリスマス・ボックス』マーク・ボラン&T.レックス (テイチク 28DN-125)
1.クリスマス・バップ
2.キング・オブ・ザ・ランブリング・スパイアーズ
(アコースティック・ヴァージョン)
3.サヴェージ・ベートーヴェン
4.マジカル・ムーン(1976スタジオ・アウトテイクス)
5.ミスター・モーション
6.クリスマス・メッセージ1972
テイチクがリシースした悪のり?ボックス2種類。『クリスマス・ボックス』は89年にリリースされたボックスで、箱は大きいが、オマケはカード1枚とTシャツという結構トホホな内容。CDの内容は、 1982年に当時版権を所有していたマーク・オン・ワックスがリリースしたミニ・アルバム『CHRISTMAS BOP』に収録されていた1~3と6に、4(『ベアード・オブ・スターズ』に収録されていた「By The Light Of Magical Moon」の再録デモ)と、73年にレコーディングされていたものを83年にジョン・ブラムリー夫妻(当時のマーク・オン・ワックス代表)がミックス・ダウンした5を加えた構成。フロ&エディが「Chiristmas, T.Rexmas~」というコーラスで盛り上げる1とギラギラした危うさがT.REXらしい4がイイ感じ。
『ゲット・イット・オン・ボックス』(テイチク TECP-30325)
1.ゲット・イット・オン
2. 〃 (ダスク・ミックス)
3. 〃 (ライヴ '71)
4. 〃 (ドーン・ミックス)
5. 〃 (ライヴ)
6. 〃 (MARK ヴァージョン)
一方『ゲット・イット・オン・ボックス』は翌90年のリリース、Tシャツとステッカーという、これまたトホホなパッケージで3000円ナリ。このころ「クレイヴン・スーパー・マイルド」というタバコのCMに「ゲット・イット・オン」が使われたため、「健康のため聴き過ぎに注意しましょう」などと書いてあり、Tシャツにもクレイヴンのロゴがはいってる。全6テイクの内容は、以下の通り。
1.オリジナル
2.トニー・ヴィスコンティによるリミックス。87年に12インチでリリースされたヴァージョン。
3.81年にリリースされた、『T.レックス・ベスト・ライヴ』(T.REX IN CONCERT)収録のテイク。
4.2と同じ
5.86年にリリースされた『T.レクスタシー』収録のテイク。
6.マークがホストを務めたテレビ番組『MARC』(英グラナダ)のためにレコーディングされたテイク。
ZINC ALLOY AND THE HIDDEN RIDERS OF TOMORROW OR A CREAMED CAGE IN AUGUST [T.レックス]
『ズィンク・アロイと朝焼けの仮面ライダー』マーク・ボラン&T.REX
1.ビーナスの美少年
2.悪魔のしもべはのろまが嫌い
3.熱く激しく爆発する唇
4.銀河の国へ
5.変革はお陽さまの如く
6.名もなき狂人
7.ティーンエイジ・ドリーム
8.いやな液体
9.懐かしのカースマイル
10.ジャイブで行こう
11.星空のソウル
12.破滅への希望
13.僕たちの復讐者
14.豹の歌
ベスト盤をのぞくと、T.REX名義では5枚目となるアルバム。これまでの諸作品と比べると、①タイトルがやたら長い、②「MArc Bolan & T.Rex」の名義になっている、③マークとトニー・ヴィスコンティの共同プロデュース形式になっている、とっいた点が目につきます。もっとも私が持っているテイチク盤(20CP-6)では、伊藤政則氏によるライナーに「マーク・ボラン自らも共同プロデュースとして名乗りを上げ」と書いてありますが、クレジットにはトニー・ヴィスコンティの名前しかありません(しかし『レコード・コレクターズ』88年7月号には「マークとトニーの共同プロデュース」とあるので、確かでしょう)。ちなみに「Hidden Rider」とは日本の仮面ライダーのことで、マークが日本公演中にテレビで見た
仮面ライダーからヒントを得たとのこと。現在では、仮面ライダーは「Masked Raider」と英語では表記されるようですが。
『電気の武者』『スライダー』で頂点を極めたものの、『タンクス』に続くこの作品の評価は低いようです。やはり「ZINC ALLOY」という架空キャラをマークが演じるというコンセプトが、ボウイの『ジギー・スターダスト』の二番煎じと見られたからに他ならないでしょう。タイトルの『ZINC ALLOY AND THE HIDDEN RIDERS OF TOMORROW OR A CREAMED CAGE IN AUGUST』からして、『THE RISE AND FALL ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』からインスパイアされたって誰が見ても分かりますし。またバンド内の不協和音も、マイナス要因として作用したことは否めません。フロ&エディはすでに前作から参加しなくなっていますし、トニー・ヴィスコンティとの仕事もこの作品が最後。さらにドラマーのビル・リジェンドがこの作品を最後に脱退します。
ただそういった先入観を抜きにして聴いてみると、意外に?いい作品です。マークの妻となる黒人女性グロリア・ジョーンズは、フロ&エディの代役として十分及第点でしょう(もっともマークが彼女をレコーディングに無理矢理参加させたことが、バンド内に不協和音が生まれた理由の一つとなったと言われています)。ストリングスもこれまでになくメロウな感じで、これまでになく音楽的な幅が広がったように感じます。特に、彼らのベスト盤には必ずはいっている「ティーンエイジ・ドリーム」はその好例でしょう。メロウなストリングスと女声バック・コーラスは、ノスタルジーさえ感じさせるロッカ・バラード。ブギーのアイドル的な雰囲気が薄れたことは確かですが、私はこの作品を、ボランが一皮むけて前進した作品として評価したいと思います。
TANX / T.REX [T.レックス]
『タンクス』T.レックス (20CP2)
1.テネマント・レディ
2.ラピッズ
3.ミスター・ミスター
4.ブロークン・ハート
5.ショック・ロック
6.カントリー・ハニー
7.エレクトリック・スリム
8.マッド・ダーナ
9.ボーン・トゥ・ブギー
10.ライフ・イズ・ストレンジ
11.ザ・ストリート・アンド・ベイブ・シャドウ
12.ハイウェイ・ニーズ
13.レフト・ハンド・ニーズ
『スライダー』に続く4枚目(73年)。私はこの作品が一番好きかな。短い曲が多いので少し散漫な印象を受けるかもしれないけど、解説の萩原健太氏が「熟し切った果実が、腐りかける一歩手前、今にも枝からポロリと落ちそうになっているかのような、妖しくジューシィな匂いが全編にただよっている」って書いていますが、言い得て妙。ボラン・ブギー炸裂のロックンロールから一転曲調が変わる1、フロ&エディのエキセントリックなファルセット・コーラスが際だつ2,イイ意味で肩の力が抜けたかのような好ナンバー3,切ない4、さらに一転してハードなリフが炸裂する5&6など名曲が続きます。タイトルイカしている9は、無敵のボラン・ブギー。リンゴ・スター撮影の映画のタイトルにもなりました。13は、このアルバムでは異色?の5分を越える大作。ヴィスコンティのストリングスにフロ&エディの狂気のコーラスがからみ、徐々に盛り上がる甘美な曲ですが、ゴスペルの雰囲気さえ持った不思議な曲。メロディ・メイカーとしてのボランの才能が再認識できる作品ではないでしょうか?
私がボランを知ったのはビートルズからみで、小学生の頃買った『ザ・ビートルズ:AN ILLUSTRATED RECORD』(ロイ・カー&トニー・タイラー著・吉村透訳:インターナショナル・タイムズ) という本にリンゴとマークが並んだ写真が掲載してあったのが最初です。少年マガジンだがジャンプだかに、福田一郎氏の推薦文つきで広告が出ていて、通販で 3000円くらい、2回の分割払いで買ったと記憶しています(奥付は1975年10月31日の発行)。
THE SLIDER / T,REX [T.レックス]
『ザ・スライダー』T.レックス
1. メタル・グゥルー
2. ミスティック・レディ
3. ロック・オン
4. ザ・スライダー
5. ベイビー・ブーメラン
6. スペースボール・リコシェット
7. ビューイック・マッケイン
8. テレグラム・サム
9. ラビット・ファイター
10. ベイビー・ストレンジ
11. ボールルームス・オブ・マーズ
12. チャリオット・チューグル
13. メイン・マン
モット・ザ・フープルは「すべての若き野郎ども」(作者はデヴィッド・ボウイ)で♪I need T.V. when I got T.REX と歌い、ザ・フーは「ユー・ベター・ユー・ベット」で♪to the sound of old T.REXと歌った。T.REXの音楽は、同時代を生きたミュージシャン仲間にとっても郷愁を感じさせるのだろう。タイトルとは裏腹になんとなくもの悲しい「すべての若き野郎ども」を聴くたびに私はこの『ザ・スライダー』を思い出す。きらびやかなんだけど、どこか寂しさを感じるこの作品を。
「メタル・グゥルー」やバウハウスのカヴァーで有名な「テレグラム・サム」を含むこのアルバムを、彼らの代表作にあげる人も多い。『電気の武者』か『ザ・スライダー』か、おそらく評価は「ゲット・イット・オン」が好きか、「メタル・グゥルー」が好きかで分かれるのではないかな。
元タートルズによる二人のコーラスは益々エキセントリックになっているよう。「スペースボール・リコシェット」とか「メイン・マン」なんて、二人のコーラスがなかったらフツーの曲に終わってしまったような気がする。「メタル・グゥルー」「テレグラム・サム」はもちろんカッコいい曲なんだけど、ツェッペリンの「胸一杯の愛を」みたいなリフで始まる珍しくヘヴィでハードな「チャリオット・チューグル」なんかも、もっと評価されていいと思うんだけどな。この曲でもフロ&エディは大活躍。
ELECTRIC WARRIOR / T.REX [T.レックス]
『電気の武者』T.REX
1. マンボ・サン
2. コズミック・ダンサー
3. ジープスター
4. モノリス
5. リーン・ウーマン・ブルーズ
6. ゲット・イット・オン
7. プラネット・クイーン
8. ガール
9. モティヴェイター
10. ライフ・イズ・ア・ガス
11. リップ・オフ
私がマーク・ボランに興味を持ったのは、30年近く前、ビートルズの本にリンゴ・スターとマークが一緒に写っている写真が掲載されていたのがきっかけでした。
四半世紀前、まだ私が中学生だったころはT.REXのレコードってのはすべて廃盤だったのです。で、『グレイテスト・ヒッツ』というLPの中古盤(確か東芝EMI製)を買って、すり切れるまで聴きました。その後「ゲット・イット・オン」をロバート・パーマーのパワー・ステーションがカヴァーしたり、あとなんかのCMに使われて80年代には結構リバイバルしました。
80年代末、T.レックス・ワックス・カンパニーの版権を得たマーク・オン・ワックス・レーベルの配給権をテイチクが獲得し、過去の名盤が次々とCD化されます。中には少々悪ノリとも言える企画盤もありましたが、買いまくったのは言うまでもありません。写真の『電気の武者』は缶入りCD。ただ缶にコーティングがしていないので、大いにサビてしまいました。その後マーク・オン・ワックスはマークの遺族とトラブルになり、版権はエドセルに移り、さらなるレア音源の発掘も行われたようです。
『電気の武者』というタイトルの割りには、ティラノザウルス・レックス時代のアコースティックで摩訶不思議な雰囲気を残している感じがします。アコースティックとエレクトリックが同居してて、奇妙なヴィブラートのかかったマーク・ボランのボーカル、聴いてると変な高揚感を感じるんですよね。それに華やかさを添えるトニー・ヴィスコンティのストリングスと、なんか妙にマッチしている元タートルズのフロ&エディによるコーラス・ワークもイイ感じ。
マーク・ボランとかT.REXというと、きらびやかなグラム・ロックのスターというイメージがありますが、このアルバムに関しては「コズミック・ダンサー」とか「モノリス」とか、何となくもの悲しさ、切なさを感じます。それは私たちがマーク・ボランのその後を知っているからなのでしょうね。