Thick as a Brick ジェラルドの汚れなき世界 [ジェスロ・タル]
原題の『Thick As A Brick』とは「レンガのように厚い=情報の伝達が遅い=うすのろ」という意味らしい。 「Your wise men don't know how it feels , to be thick as a brick. 」という歌詞があり、wiseと対置されているので、そのとおりなのだろう。確かに8歳の子どもが書くような詩ではない。イアン・アンダーソンはインタビューの中で「『アクアラング』がコンセプトアルバムと誤解されたので、そうじゃないということを皮肉なやり方で理解してもらうためにこのアルバムをつくった」ということを述べているが(『ストレンジ・デイズ』2013年3月号)、なんとも英国的なジョーク!歌詞を読んでもさっぱり意味不明だが、モンティ・パイソンのような真面目にふざけている感覚が伝わってくる。真面目なユーモアと緩急自在の構成、フルートを主体にアコースティック・ギターからエレクトリックまで印象に残るリフとメロディーが次々と登場してくる。アコースティック・ギターとフルート、ピアノのファンタジックなアンサンブルに、オジサンなのか若いんだか不明な不思議なヴォーカルが被さってくるオープニングから、ラストの”yenn....”というつぶやきともため息ともつかないひと言まで、アナログA面のパート1とB面のパート2でトータル約44分、レコードまるまる1枚で全1曲。まったく飽きさせない完璧な演奏だ。その軸となるのはもちろんイアン・アンダーソンのフルート。アコースティック・ギターやピアノとともに紡ぎ出される上品な調べから、オルガンやエレクトリック・ギターと絡むアグレッシヴな演奏までまさに変幻自在。
シングル曲もないのに全英5位、全米では1位となるヒットとなったのはそれまでのジェスロ・タル作品には感じられなかった「やわらかさ」「わかりやすさ」だと思う。『日曜日の印象』や『アクアラング』も素晴らしい作品だけど、とっつきにくい固さというか難解さが感じられていた。それに対して『ジェラルド』は彼らの魅力であるクラシカルでトラディショナルな要素は残しつつもポップであり、聞き手も余裕を持って耳を傾けることができる。あたかも中世ヨーロッパを舞台にした舞台劇のような雰囲気であり、『パッション・プレイ』へのつながりも感じられる。
Jethro Tull - Thick As A Brick (live in London 1977)
名作の常として、「○○周年記念盤」や「デラックス・エディション」、ひいては「パート2」が制作されるが、『ジェラルド』も様々なエディションがリリースされた。私が最初に買ったCDは1993年にリリースされた東芝EMI盤(TOCP-7815)で、ヴォーカルの音圧がちょっと弱い印象を受ける。1997年にリリースされた25周年記念盤はリマスターされて音がよくなっており、新聞のミニチュアレプリカがついたボックスセットもあり。25周年盤には約12分のライヴ・ヴァージョン(1978年のMSG)と16分のインタビューがボーナス・トラックとして収録されているが、残念なことにリマスタリングの際にエンディングの「ため息」を消してしまうという大失態を演じている。ジャケットに赤い文字で「LATE EXTRA」と書かれているのが25周年盤。2012年にリリースされた40周年記念盤は、スティーヴン・ウィルソン(ポーキュパイン・ツリー)によるリミックスで、「ため息」が復活しているらしい。
2012年にはリリース40周年を記念して、パート2が制作された。政治家となったものの落選して政界を引退したジェラルド・ボストックがSt Cleve という小さな町に引っ越して回顧録を書くという話。実は両親が息子の年齢を偽っており、詩を書いたのは歳ではなく9歳のときで、コンテスト当時は10歳だったというオチまでついている。40年後なのにジェラルドは50歳になっているのはそのため。
新聞の電子版 https://www.stcleve.com/
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