SULK / THE ASSOCIATES [アソシエイツ]
1999年頃、「Cocteau Twins Fan Page in Japan BBS」という掲示板があって、そこにはコクトー・トゥインズのサポート・メンバーだった舘美津男(https://twitter.com/mitsuo_tate)氏も「tate」というハンドルネームで時々書き込みをしていた。当時イギリスのPC環境では日本語入力がムリだったのか、ローマ字での書き込みがほとんどだった。ある時彼がその掲示板で、「ビリー・マッケンジーのレコーディングに参加したことがある」と書いてて、ずいぶんと驚いた記憶がある。舘氏はアソシエイツについて、「New Waveっていうのかな」とつぶやきつつ、この『Sulk』を代表作にあげていたと思う。ビリー・マッケンジー名義のアルバム『BEYOND THE SUN』に収録されている「At The Edge Of The World」には舘氏(プログラミング)とコクトー・トゥインズのサイモン・レイモンド(ベース&ワウ・ワウ・ギター)、そしてアラン・ランキンもクレジットされている。
アソシエイツの2枚目(編集盤『碧い幻』を含めると3枚目)にあたる『サルク』は、アソシエイツの最高傑作というだけでなく、80年代の英国音楽シーンが生んだ傑作だ。ジャケットのイメージそのまま、サイケデリックで目も眩むほどゴージャスなサウンド。それでいて青を基調とした冷たい陰翳感。「自殺ソング」と言われるダミア「暗い日曜日」のカヴァーから、「Party Fears Two」「Club Country」といったシングル・ヒット曲までビリーのヴォーカルとアランのサウンド・プロダクションがガッチリ噛み合っている。「Party Fears Two」のエンディング部分における天空に響き渡るかのようなビリーの歌声は、感動すら覚える。このアルバムは、英『Melody Maker』誌で1982年のAlbum of the Yearに選ばれた。
Party Fears Two
Club Country
本国では1982年の5月にリリースされたこのアルバム、同年10月に米国でリリースされた際には収録曲と曲順が異なっていた。
Beggars Banquet ASCL 1 A1. Arrogance Gave Him Up A2. No A3. Bap de la Bap A4. Gloomy Sunday A5. Nude Spoons B1. Skipping B2. It's Better This Way B3. Party Fears Two B4. Club Country B5. Nothinginsomethinginparticular | Sire 1-237274 A1. It's Better This Way A2. Party Fears Two A3. Club Country A4. Love Hangover A5. 18 Carat Love Affair B1. Arrogance Gave Him Up B2. No B3. Skipping B4. White Car in Germany B5. Gloomy Sunday B6. The Associate |
米国盤からは「Bap de la Bap」と「Nude Spoons」の2曲がカットされ、「Love Hangover」「White Car in Germany」「The Associate」の3曲が差し替えられている。また、「18 Carat Love Affair」は、UK盤はインストの「Nothinginsomethinginparticular」だったが、US盤ではヴォーカル入りのシングル・ヴァージョン。カットされた2曲はどちらも縦横無尽に飛び回るヴォーカルが尋常ではなく、常人にはとても真似できない破天荒さ。「ドラッグでもやってるに違いないと思われたら困る」と心配されたのではないか。
18 Carat Love Affair
このアルバムをレコーディングしたメンバーでツアーも行われたが、なかでも「Club Country」「Love Hangover」「18 Carat Love Affair」でバック・ヴォーカルを担当しているカナダ出身のキーボード・プレイヤー、マーサ・ラッドリー(Martha Ladly)は重要な役割を果たしていた。彼女はカナダのニュー・ウェーヴ・バンド、マーサー&ザ・マフィンズ(Martha and the Muffins:1980年に「Echo Beach」がUKチャートで6位まで上がった)でキーボード&バック・ヴォーカルを担当していた女性である(このバンド名の「マーサ」は彼女ではなく、もう一人のマーサであるマ-サ・ジョンソンMartha Johnsonに由来する)。「Party Fears Two」「Club Country」といったPVをはじめ、「Top of the Pops」(TOTP)などのテレビ番組でも彼女の姿を確認できる。現在彼女は母校でもあるカナダのOCAD University(Ontario College of Art and Design)でデザインの教授をしており、1982年にリリースされたニュー・オーダーの5曲入りEP「1981–1982」(Factus 8) のジャケットでピーター・サヴィルが用いたのは、彼女が描いた作品である。
https://www2.ocadu.ca/bio/martha-ladly-1
http://cargocollective.com/marthaladly/Fun
Party Fears Two - Top of the Pops
Club country - Top of the Pops
02. No 03. Bap de la Bap 04. Gloomy Sunday 05. Nude Spoons 06. Skipping 07. It's Better This Way 08. Party Fears Two 09. Club Country 10. Nothinginsomethinginparticular 11. Love Hangover 12. 18 Carat Love Affair 13. Ulctagycepnmol 14. And Then I Read A Book 15. Australia 16. Gtacian 2000 17. The Room We Sat In Before |
1-02. No 1-03. Bap De La Bap 1-04. Gloomy Sunday 1-05. Nude Spoons 1-06. Skipping 1-07. It's Better This Way 1-08. Party Fears Two 1-09. Club Country 1-10. Nothinginsomethingparticular 2-01. 18 Carat Love Affair 2-02. Love Hangover 2-03. Club Country (12") 2-04. Party Fears Two (Inst.) 2-05. It's Better This Way (Alt Version) 2-06. And Then I Read A Book 2-07. Ulcragyceptimol 2-08. Skipping (Alt. Version) 2-09. Australia 2-10. Me, Myself And The Tragic Story 2-11. I Never Will (Demo) 2-12. Club Country (Demo) 2-13. Grecian 2000 |
THE FOURTH DRAWER DOWN / THE ASSOCIATES [アソシエイツ]
01. White Car in Germany
02. A Girl Named Property
03. Kitchen Person
04. Q Quarters
05. Tell Me Easter's on Friday(イースターの金曜日)
06. The Associate
07. Message Oblique Speech(歪んだメッセージ)
08. An Even Whiter Car
09. Fearless (It Takes a Full Moon)
10. Point Si
11. Straw Towels
12. Kissed
13. Blue Soap
キュアーのレーベルFictionから『The Affectionate Punch』(80年)をリリースした後、ベガーズ・バンケット傘下のSituation2へ移籍して81年にリリースした2枚目。6枚のシングルを集めたコンピレーションで、日本で最初に紹介されたアソシエイツの作品(邦題は『碧い幻』)でもあった。もっとも、雑誌『ミュージック・ライフ』での評価は5点満点の2点(理由は「暗すぎる」)と芳しいものではなかった。オリジナルのアナログに収録されていたのは01~08で、09~13は2000年にV2からリイシューされた時に収録されたボーナス・トラックである。
Fictionを離れた後の最初のシングルは、メジャーのRSOから39 Lyon Streetの名義で81年5月に発表された「Kites」で、02はそのB面曲。B面はアソシエイツ名義である(「Kites」はアソシエイツの2枚組ベスト盤『SINGLES』に収録されている)。その他のカップリングは01/06(81年12月)、03/08(81年8月)、04/12(81年6月)、05/11(81年7月)、07/13(81年10月)。81年の5月から12月の8ヶ月間に6枚のシングルというハイペースでのリリースで、しかもすべてがハイクオリティという驚異的な時期である。アルバム全体を包むダークで冷んやりとした感覚は、シングルの寄せ集めながらも統一感が感じられ、このアルバムを聴いていた高校時代の夏の夜、窓から流れ込んでくる風を思い出す。ビリー・マッケンジーのハイ・トーン・ヴォーカルに、アラン・ランキンのシンセが絡むアソイエイツ独特の世界はこの時期に確立されたと言っていい。「音の万華鏡」とも称された彼らの世界は、さらにポップさも加えた最高傑作『SULK』へと向かう。『SULK』の評価の高さゆえに見過ごされがちだが、アソシエイツ、特にアラン・ランキン在籍時の彼らの本質は、ニュー・オーダーやザ・スミス同様にシングル重視のバンドだ。その意味でこのアルバムは、彼らの魅力をよく伝えるコンピレーションだと言える。
2016年には2枚組となってリイシューされた。Disc1はオリジナルの8曲で、Disc2には以下の8曲が収録されている。
01. Straw Towels
02. Kissed
03. Fearless (It Takes A Full Moon)
04. Point Si
05. Blue Soap
06. The Tree That Never Sang
07. Straw Towels (Demo)
08. Q Quarters (Demo)
THE AFFECTIONATE PUNCH / THE ASSOCIATES [アソシエイツ]
1980 ORIGINAL ALBUM
01. The Affectionate Punch
02. Amused as Always
03. Logan Time
04. Paper House
05. Transport to Central
06. A Matter of Gender
07. Even Dogs in the Wild
08. Would I... Bounce Back
09. Deeply Concerned
10. A
【Bonus Tracks】
11. You Were Young
12. Janice
13. Boys Keep Swinging (Mono)
14. Mona Property Girl
1982 REMIX ALBUM
01. Amused As Always
02. The Affectionate Punch
03. A Matter of Gender
04. Would I... Bounce Back
05. A
06. Logan Time
07. Paper House
08. Deeply Concerned
09. Even Dogs in the Wild
10.Transport to Central
アソシエイツのデビューアルバムは、1980年にリリースされたが、2年後の82年にリミックス盤がリリースされた。私が先に聴いたのはリミックス盤の方。メンバーの2人ともリミックス盤はあまり気に入らなかったそうだが、私はリミックス盤の方が好きだ。
オリジナルはキュアーのフィクション・レコードからリリースされたこともあり、キュアー的なポスト・パンク・サウンド。一方のリミックス盤は、後の作品につながるシンセが大々的にフィーチャーされ、カラフルかつゴージャズな音作りになっている。曲順もかなり入れ替わっているが、「Amused As Always」から始まって「Transport to Central」で終わるという流れが馴染んでしまって、イントロもリミックス盤とはかなり違う「The Affectionate Punch」のオープニングには、ちょっと違和感を感じてしまう。とはいえ、万華鏡のようなサウンド・プロダクションを欠いている分、ビリーのヴォーカルはデビューの時点から卓越していたことがわかるのも事実。なかでも「Deeply Concerned」のヴォーカルの凄さは、オリジナル盤を聴いて改めて認識した。
オリジナル盤にはキュアーのロバート・スミスもバッキング・ヴォーカルでクレジットされているが、どの曲に参加しているのか、注意して聴いてみたけど聴き取れなかった(タイトル・ナンバーに参加しているという記事もみかけたが)。またオリジナル盤のプロデューサーとしてクレジットされているマイク・ヘッジズの経歴も面白い。彼が手がけた作品は、そのままUKニュー・ウェイヴの歴史と言っていいくらい。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mike_Hedges#Discography