LIKE AN OLD FASHIONED WALTZ / SANDY DENNY [サンディ・デニー]
オールド・ファッションド・ワルツ+14(デラックス・エディション)(紙ジャケット仕様) Like An Old Fashioned Waltz: Deluxe Edition
LIKE AN OLD FASHIONED WALTZ (+14) / SANDY DENNY
【DISC 1】
01. Solo
02. Like An Old Fashioned Waltz
03. Whispering Grass
04. Friends
05. Carnival
06. Dark The Night
07. At The End Of The Day
08. Until The Real Thing Comes Along
09. No End
10. Walking The Floor Over You (1973 Version)
11. No End (Piano Version)
【Disc 2】
01. Solo (BBC Session 1973)
02. Until The Real Thing Comes Along(BBC Session 1973)
03. Like An Old Fashioned Waltz (Witout Strings)
04. Whispering Grass (Demo)
05. Friends (Alternate Take Witout Strings)
06. Dark The Night (Alternate Take Witout Strings)
07. At The End Of The Day (Alternate Take Witout Strings)
08. No End (Alternate Take Witout Strings)
09. Solo (BBC Session 1973)
10. Like An Old Fashioned Waltz (BBC Session 1973)
11. Who Knows Where The Time Goes? (BBC Session 1973)
12. Whispering Grass (Live Version)
アメリカ南部を流れるゆったりとした空気を、音にしたらこんな感じになった....という雰囲気の作品。収録されている曲のうちの何曲か(01/04/07/09)は、73年の米国ツアー中にロサンゼルスのA&Mスタジオでレコーディングされ、またアメリカ滞在中に書かれた曲もあるようだが、そうしたことも影響しているかもしれない。フォーク/トラッドのシンガーというそれまでの彼女のイメージを覆すこのアルバムは、曲、アレンジ、バックの演奏、声、歌、ジャケットのアートワーク等すべてが上手く一体化している奇跡的な一枚。
ストリングスがフィーチャーされるなどゴージャスなアレンジの曲もあるが、余裕を感じさせつつも朗々と歌い上げる彼女のヴォーカルとうまくマッチしている。リンゴ・スターもカヴァーしている03、ビリー・ホリディやエラ・フィツジェラルド、カーメン・マクレエ、ナット・キング・コールといったジャズの大物女性シンガーが取り上げた08など、スタンダードを正統派アレンジで歌い上げる歌の巧さ。このアルバムがリリースされた1974年当時(本来は73年にリリースされる予定が、第4次中東戦争に伴うオイルショックでレコードの原料である塩化ビニールが不足したことから、彼女のアルバム・リリースは後回しになったらしい)、彼女は27歳。一体どんな人生経験を重ねれば、20代半ばの若さで01や02のようなノスタルジックで味わい深い曲を書くことができるのだろう。
印象的なold fashionedのジャケット写真は、『レコード・コレクターズ』誌で興味深いエピソード満載の特集「A Life of Photographing Legends ~ 写真家ゲレッド・マンコヴィッツが語る英国ロックの伝説」を連載していたゲレッド・マンコヴィツである。アルバム・ジャケットに採用された写真は凛とした感じだが、ブックレットには当時のプレス・キットに使用された笑顔の写真や微笑を浮かべた写真などが掲載されている。いい感じの写真ばかりだが、彼女のエピソードも『レコ・コレ』誌で述べられていたのかどうか。
生憎と、平成最後の今日は雨模様。半袖だと少々寒い天気で、「アメリカ南部のような」とはいかないが、彼女の声は「少々寒い春の雨の休日の午後」雰囲気にも馴染むように思われる。
Solo
「ソロ」におけるリード・ギターについて、CD5枚組ボックス『Sandy Denny : A Boxful of Treasures 』(2004)付属のブックレットではジェリー・ドナヒューとクレジットされているが、『デラックス・エディション』の邦訳解説ではリチャード・トンプソンだという記述がある。果たして真相は。
Like An Old Fashioned Waltz
How I'd love to remain with the silver refrain of an old fashioned waltz.
Nothing More - The Collected Fotheringay / Fotheringay [サンディ・デニー]
サンディ・デニーがトレヴァー・ルーカスとともに結成したフォザリンゲイ。2015年にリリースされた、CD3枚プラスDVD1枚の計4枚からなるボックス・セットは、全盛期のサンディのヴォーカルがまとめて堪能できる素晴らしい作品である。個人的にはトレヴァー・ルーカスのヴォーカルは必要なかったと思うが、そうしたファンの思いとサンディ自身の思いとのギャップが、バンドを短命に終わらせてしまったのかもしれない。
詳細な解説は、『レコード・コレクターズ』2015年7月号に詳細な解説が掲載されているので、そちらを読むのがよかろう。セットの内容は以下の通り。
ディスク1:唯一のアルバム『フォザリンゲイ』+ボーナストラック6曲
ディスク2:2008年にリリースされたセカンドアルバム『2』+ボーナストラック6曲
ディスク3:70年オランダのライヴ9曲+BBC音源7曲、
ディスク4(DVD):ドイツの「BEAT CLUB」映像4曲
ディスク2の『2』は、もともとジョー・ボイドがプロデュースした音源を元メンバーのジェリー・ドナヒューが完成させた作品。イギリスのインディ・レーベルFledg'ling Recordsからリリースされたものだが、これは亡き二人に対する敬愛が感じられる素晴らしい仕事である。
もともとフォザリンゲイは、トラッド・ナンバー中心になっていったフェアポートに対して、サンディが自分のやりたいことを求めて恋人とともにつくったバンドである。ジェリー・ドナヒューはアメリカ出身で、『2』にはボブ・ディランの「I Don't Believe You」も収録されているが、フェアポートの『リージ&リーフ』にはディラン・ナンバーが収録されなかったことも考え合わせると、彼女の想いがかいま見えるような気がする。それでもやはり、『2』で最も素晴らしいのは、チャイルド・バラッドのトラッド・ナンバー「ジプシー・デイヴィ」だ。1stのCDにも収録されている既発ヴァージョンに加え、ボーナス・トラックとして「Joe Boyd mix」という別ミックスも収録されている(DVDには映像も収録)。ボブ・ディランもこの曲を取り上げているが、最初ディランの曲を聴いたときは、同じ曲だとは気がつかなかった。 『グッド・アズ・アイ・ビーン・トゥ・ユー』(92年)に、「 ブラックジャック・デイヴィ」というタイトルで収録されている。
初出となったディスク3のBBC音源はなかなかの高音質で、ディスク4のDVDもクオリティは悪くない。惜しむらくは、2011年に公式リリースされたドイツ(エッセン)でのライヴ音源が収録されなかったことかな。
このボックスのリリースにあわせて、ジェリー・ドナヒューはジェリー・コンウェイ(D)とパット・ドナルドソン(B)のオリジナル・メンバーに、新たに3人のメンバーを加えて6人組でフォザリンゲイを再始動させた。 https://www.fotheringay.com/
新生フォザリンゲイは2016年1月に最初のステージを行い、6月からツアーも開始された。ところが7月29日にジェリー・ドナヒューが脳卒中に倒れてしまい、活動は停止を余儀なくされてしまった。英語版ウィキペディアによると、ジェリーの再起は困難らしい。
https://www.fotheringay.com/single-post/2016/01/04/Fotheringay-2016-Tour-Dates
SANDY / SANDY DENNY [サンディ・デニー]
1. It'll Take A Long Time
2. Sweet Rosemary
3. For Nobody To Hear
4. Tomorrow Is A Long Time
5. Quiet Joys Of Brotherhood
6. Listen, Listen
7. The Lady
8. Bushes And Briars
9. It Suits Me Well
10. The Music Weaver
2枚目のソロ・アルバムは、「トラッド/フォーク」の枠を越えて万人にアピールできる作品に仕上がっている。英国トラッド/フォークの魅力は独特の陰影にあり、前作の『海と私のねじれたキャンドル』は、その好例だと思う。この『SANDY』の魅力は、そういった暗さを残しつつ、アメリカ的明るさをも同時に感じさせる点にある。アラン・トゥーサン(ブラス・アレンジャー)に、故スニーキー・ピート(フライング・ブリトー・ブラザーズ、がペダル・スティール)といったアメリカ南部勢が参加してるせいでしょうね。リチャード・トンプソンのマンドリン、ボブ・ディランの「明日は遠く」で聴かせるサラリとしたヴォーカルも明るい感じ。
白眉は、アナログだとA面のラストに収録されている「Quiet Joys Of Brotherhood」。原曲は、ケイト・ブッシュも取り上げているアイリッシュ・トラッドの「My Lagan Love」。歌詞はリチャード・ファリーニャ(ジョーン・バエズの妹の夫)によるもので、彼の詩をのせたこの曲は、ジェファーソン・スターシップも取り上げている(『ツリー・オブ・リバティー』に収録)。静寂の中に響き渡る、オーヴァーダビングを重ねた彼女の凛としたヴォーカル、エンディングに流れるデイヴ・スウォーブリックのヴァイオリンも素晴らしい。
このアルバムを聴くと、高校時代の夏休みの夕暮れ、窓からはいってくる涼やかな風を思い出す。
GOLD DUST: Live At The Royalty Theater / SANDY DENNY [サンディ・デニー]
1. I Wish I Was a Fool for You (For Shame for Doing Wrong)
2. Stranger to Himself
3. I'm a Dreamer
4. Take Me Away
5. Nothing More
6. Sea
7. Lady
8. Gold Dust
9. Solo
10. John the Gun
11. It'll Take a Long Time
12. Wretched Wilbur
13. Tomorrow Is a Long Time
14. North Star Grassman and the Ravens
15. One More Chance
16. No More Sad Refrains
17. Who Knows Where the Time Goes?
サンディ・デニーの没後20年を記念してアイランドが1998年にリリースしたライヴ盤。サンディーは1978年4月21日に31歳で死去したが、このCDはジャケットに記載されているように1977年11月27日にロンドンのサウンド・サーカスにおけるライヴを収録したものである。ブックレットにはこの年の11月6日から始まった英国ツアー・スケジュールが記載されているが、それによるとこの日のライヴが彼女の生涯最後のステージとなったようである。バックには夫君の故トレヴァー・ルーカス(アコースティック・ギター、バッキング・ヴォーカル)をはじめ、元フェアポートのデイヴ・マタックス(ドラム)、フォザリンゲイ以来の盟友ジェリー・ドナヒューなどが参加している。1(リチャード・トンプソンの作品)、13(『Sandy』にも収録されていたボブ・ディランの作品)以外はすべて彼女の曲である。クレジットによるとマスターに問題があったためにジェリー・ドナヒューのギターとサイモン・ニコル&クリス・レズリーのバック・ヴォーカルが加えられているようだが、違和感は全くない。4などで聞こえるバック・ヴォーカルがあとから加えたものだと思われるが、素朴なイイ感じである。リンダ・トンプソンのカムバックを支援するなど、気配りのきくサイモン・ニコルの人柄がしのばれる。「時の流れを誰が知る」で彼女がボソボソと曲を紹介すると、客席からは大きな歓声があがり、彼女は小さな声で「サンキュー」と応えている。このあたりの控えめな感じが彼女らしい。
サンディ・デニーのヴォーカルは、荒涼としたイングランドの冬を思わせる雰囲気をもっているが、このアルバムはすこし違う印象を受ける。もちろんライヴ録りということもあるだろうし、ペダル・スティール・ギターがバックにはいっているせいかもしれないが、エモーショナルで暖かみすら感じられる。バックがトレヴァーやジェリーら気心のしれたメンバーであること、また母親になったことも影響しているのではあるまいか。
このアルバムは、1997年にシドニーで生まれた(サンディの死後トレヴァー・ルーカスはサンディとの間に生まれた子供とともにオーストラリアに移住した)彼女の二人の孫娘に捧げられている。このアルバムがレコーディングされたとき、サンディは産休から復帰したばかりだったそうだが、その時に生まれた子供が、二人の孫娘(多分双子だろう)の親となったのだろう。
NORTH STAR GRASSMAN AND THE RAVENS / SANDY DENNY [サンディ・デニー]
1.11月のおわりに
2.Blackwaterside
3.Sea captain
4.Down in the flood
5.John the gun
6.Next time around
7.Optimist
8.Let's jump the broomstick
9.Wretched Wilbur
10.North Star grassman and the ravens
11.Crazy lady blues
フォザリンゲイ解散後、71年に発表されたサンディの1stソロアルバム。バックにはトレヴァー・ルーカスを始めとして元フォザリンゲイのメンバーが全員参加し、さらにフェアポート時代の僚友リチャード・トンプソンが全面的にバックアップしている (リチャードはプロデューサーとしてもクレジットされている)。この作品でも、サンディのコンポーザーとしての才能は遺憾なく発揮され、特に「ジョン・ザ・ガン」は彼女の作品の中でも名作の一つだろう。「11月のおわりに」レッド・ツェッペリンの「ブラック・マウンテン・サイド」の元ネタとして有名なトラッドの「ブラック・ウォーター・サイド」など、アルバム全体を覆うイギリス的な翳りが素晴らしい。ジャケットも英国的な雰囲気をよく醸し出しており、秀逸。