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収束 / ソフト・マシーン ~アラン・ホールズワースが参加した唯一のアルバム [カンタベリー系]

 ソフト・マシーン8枚目のアルバム『収束』(『バンドルズ』)は、元テンペストの超絶ギタリスト、アラン・ホールズワースが参加した唯一の作品。1975年にハーヴェスト・レコーズからリリースされた(フロイドの『炎』と同じ)。サイケデリックなジャズの雰囲気はまったくなくなり、ロック色が強くなった作品で、一般には「フュージョンの作品」とされている。この『収束』では、それまでバンドのイニシアティヴを握ってきた唯一のオリジナル・メンバーであるマイク・ラトリッジの役割は後退し(収録されている曲のうちラトリッジの作曲は2曲だけで、そのうちの1曲は2分にも満たない短い曲)、代わってバンドの中心となったのはA面のほとんどを占める組曲「ハザード・プロファイル」とラストの「流浪の世界」を作曲したカール・ジェンキンスである。ラトリッジはこのアルバムを最後にソフト・マシーンを脱退するが、自分以外のメンバーが全員同じバンド(ニュークリアス)の元メンバーというのは、やはり居心地はよくなかっただろう。
 これまでは独特の浮遊感あふれるイメージが持ち味だったソフト・マシーンだが、リフが多くなり「ああ、あの曲だ!」というイメージ(=わかりやすさ)がはっきりした作品となっている。聞き所はアラン・ホールズワースの圧巻のギターであり、いつ果てるともしれないアドリブ・プレイはまさに「弾きまくりというより、垂れ流しに近い超絶プレイ」(『レコード・コレクターズ』2013年3月号)である。ソフト・マシーンの代表作とはいえないが、ジャズよりもロックにベクトルが向いた秀作であり、名作であることは間違いない。

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 アラン・ホールズワースがソフト・マシーンに在籍したのは1973年11月から1975年の3月までで、この時期のライヴ音源として聴くことができるのは以下4つ。①と③はオフォシャル盤でリリースされており、②は「Alive the Live」シリーズにはいっている。④は『Early Bundles 1974』『Hazard Profile: Live At Syracuse University New York 1974』『Allan Last Stand』等様々なタイトルでリリースされており、私が持っているのは『LIVE BUNDELES』(DREAM CANTERBURY CTD-003)というアイテムで、良好なSB。

①1974年7月4日のモントルー(スイス)公演
②1975年1月10日のエンシェーデ(オランダ)公演
③1975年1月29日のブレーメン(当時の西ドイツ)公演
④1975年3月13日のニューヨーク公演

 このうちモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのステージである①は、DVDとの2枚組で、DVDではメンバー各人の超絶的なプレイが改めて確認できるが、なかでもアラン・ホールズワースのヴォーカル?が聴けることは特筆に値する。中期以降、歌モノはないソフツだが、「流浪の世界」ではジョン・マシャール(先日お亡くなりに...)のグロッケンシュピールとマイク・ラトリッジのエレピの幻想的な音色をバックにアランのスキャット風のヴォイスを聴くことができる(アラン?のヴォイスは④でも確認できる)。また、「汽車への別れ」は聞き比べてみるとそれぞれに特徴があって興味深い。オリジナルでのリードはカール・ジェンキンズのサックスだが、③ではアラン・ホールズワースがヴァイオリンを弾いている。④のヴァージョンは20分近い長さで、前半はカール・ジェンキンスの長尺アドリブとロイ・バビントンの白熱ベースとのバトルが圧巻。最初にアランが短いアドリブを入れている。後半はひたすらアラン・ホールズワースの世界。



 『収束』がリリースされたのは1975年の3月15日なので、①~④すべて『収束』のリースより前のステージであるが、セットリストはほぼ『収束』から。この時期のソフト・マシーンは過去の曲を封印し、新しくリリースされる作品がもつロックの方向性で勝負しようという姿勢がうかがえる。しかし『収束』のリリースとアランの脱退はほぼ同時期になってしまい、『収束』の2CDエディションに付属のロンドン公演(1975年10月11日)のギタリストはアラン・ホールズワースではなく、ジョン・エサリッジ(元ダリル・ウェイ&ウルフ)に変わった。ジョン・エサリッジも優れたギタリストであり、アランの抜けた穴をよくカヴァーしている。




収束

収束

  • アーティスト: ソフト・マシーン
  • 出版社/メーカー: ベル・アンティーク
  • 発売日: 2023/07/25
  • メディア: CD



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伝説 / ヘンリー・カウ  反体制と反商業主義 [カンタベリー系]

 「カンタベリー系」にはソフト・マシーンとキャラヴァンの二大バンドをはじめ、ゴングやハットフィールド&ザ・ノースといった個性的なバンドが多い中、ひときわ異彩を放つのがヘンリー・カウ。メロディアスで美しいフレーズやフリー・ジャズ風の演奏、さらにはハイテクニックなギターソロも現れる変幻自在なサウンドは、一聴成り行き任せのような印象も受けるが、おそらくかなり緻密な計算のもとに曲構成が考えられていると思われる。混沌と秩序、緻密さとラフさが同居したまさにフリーキー(風変わり)なサウンドであり、しかもメンバー全員が凄腕という「通好み」なバンドである。そのせいか、「カンタベリー系」以外にも「エクスペリメンタル・ロック」、「チェンバー・ロック」「アヴァン・ロック(からのアヴァン・プログ(レ))」などのカテゴリーでも語られる。反体制運動RIO(Rock in Opposition)からのレコメンデッド・レコード設立により「レコメン系」とも呼ばれるが、その思想的・政治的な部分から伝説のトラッド・シンガーであるフランキー・アームストロングとも結びつく(The Orckestra)など、音の間口は広い。とかく前衛的な部分が目立ってしまうのでプログレ界隈では敬遠する人も多いようだが、最初「なんだこりゃ」と思っても何度も聴いているうちにその魅力に引き込まれるバンドである。

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 ヘンリー・カウのデビュー・アルバム『LEGEND』は、1973年にヴァージン・レコードからリリースされた(レコーディングもマナー・スタジオで、エンジニアはトム・ニューマンというヴァージン系の人たち)。後にオリジナルのタイトルが『Leg End』という表記に変更になったものの、邦題は74年の日本コロムビア盤から2015年のベル・アンティーク盤まで一貫して『伝説』という邦題が使用されてきた。

 彼らの魅力を伝える代表曲とも言える1曲目の「Nirvana For Mice」には、 First Bit Of 'Nirvana For Mice'のエンジニアとしてマイク・オールドフィールドがクレジットされている。「First Bit」とは、冒頭のドラムの一音から2つのホーンによるアンサンブルの部分(約1分間)だと思われるが、立体感のあるピアノが隠し味。このわずかな部分だけにマイク・オールドフィールドが手を加えたという事実からも、ヘンリー・カウの曲が緻密な計算のもとに制作されたことがうかがえる(91年にEast Side DigitalからリリースされたCD(ESD 80482)はメンバーであるティム・ホジキンソンとフレッド・フリスによってリミックスされ、全体的に強いリバーブ処理が加えられているが、この最初の部分だけで違いがハッキリとわかる)。最初はメロディアスだったな曲がサックスのリードでどんどん混沌に向かっていく様は、聴いてる自分が吸い込まれていくような気分になるが、一方でバックの冷静なベースラインと手数は多いがブレないドラムがなんともクール。唐突に終わる1曲目から、一転してフルートが美しい次の「Amygdala」への流れもよい。「Amygdala」は牧歌的でユーモラスな部分も含めてハットフィールド&ザ・ノース的な部分も感じられ、ヘンリー・カウがカンタベリー系であることを改めて感じる曲。「Nine Funerals Of The Citizen King」のロバート・ワイアット的なヴォーカルとクラシカルな演奏は、まさに「チェンバー・ロック」。なお91年EDS盤のクレジットによれば、この曲には次作からメンバーとなったリンゼイ(リンジー)・クーパー(フランキー・アームストロングとともにFeminist Improvising Groupを結成する)によるバスーンが新たにオーバーダビングされている。

Nirvana for Mice


 オリジナルは9曲で、リミックスされた91年のESD盤には「Bellycan」というボーナス・トラックが収録されて10曲入りになっていた。2015年にベル・アンティークからリリースされたSHM-CD盤(ミックスはオリジナル仕様)には4曲のボーナス・トラックが収録されているが、いずれも40周年ボックスに収録されていたテイクであり、初出の発掘音源ではない。このうち「Teenbeat」の別ヴァージョンは10分を越える大作で、(もちろん元ハットフィールド&ザ・ノースの方の)デイヴ・スチュワートが参加している。




伝説(LegEnd)

伝説(LegEnd)

  • アーティスト: ヘンリー・カウ
  • 出版社/メーカー: ベル・アンティーク
  • 発売日: 2015/06/25
  • メディア: CD



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