Door X / David Torn デヴィッド・トーン [スーパー・プロジェクト]
デヴィッド・トーンのギター・プレイは変幻自在。無限に広がる大宇宙や大自然の中の夜明け、そして暮れなずむ大都会まで、私のイマジネーションを刺激してくれる。また、時に中近東風、時にヨーロピアンと無国籍風。私の中ではマイク・オールドフィールドと双璧なんだけど、マイクがナチュラル指向で一人で作っていくタイプなのに対して、デヴィッド・トーンはテクノロジーを駆使して、ゲスト・ミュージシャンの良さを引き出すことに長けている。そうしたデヴィッド・トーンの魅力がよく出ているのが、『Door X』(1990年)。前作『Cloud About Mercury』(87年)と並ぶ、私の愛聴盤である。
『Cloud About Mercury』には参加できなかったミック・カーンが参加した本作には、前作に引き続いてビル・ブルーフォードが参加し、安定した作品に仕上がっている。デヴィッド自身のヴォーカル(なかなかよい)をフィーチャーしたブルージーでジャジーな「voodoo chile」(ジミ・ヘンドリクスのカヴァー)や、ミック・カーンとの共作「Lion of Boaz」(ラッセル・ホーバンのファンタジー小説『ボアズ=ヤキンのライオン』にインスパイアされた)など聞き所も多いが、トランペットにクリス・ボッティを起用した「the others」の心地よさは最高(後にクリス・ボッティは、ビル・ブルーフォード、トニー・レヴィン、デヴィッド・トーンともにブルーフォード・レヴィン・アッパー・エクストリミティーズを結成する)。
『ミック・カーン自伝』によれば、元JAPANのメンバーによるレイン・トゥリー・クロウのプロデューサーとしてデヴィッド・トーンにもオファーがあったというが(結局実現しなかった)、このときミック・カーンから「デヴィッド・トーンに似てる」と言われたデヴィッド・シルヴィアンが自分のギター・ソロをすべて消去したというエピソードは面白い。
『Cloud About Mercury』には参加できなかったミック・カーンが参加した本作には、前作に引き続いてビル・ブルーフォードが参加し、安定した作品に仕上がっている。デヴィッド自身のヴォーカル(なかなかよい)をフィーチャーしたブルージーでジャジーな「voodoo chile」(ジミ・ヘンドリクスのカヴァー)や、ミック・カーンとの共作「Lion of Boaz」(ラッセル・ホーバンのファンタジー小説『ボアズ=ヤキンのライオン』にインスパイアされた)など聞き所も多いが、トランペットにクリス・ボッティを起用した「the others」の心地よさは最高(後にクリス・ボッティは、ビル・ブルーフォード、トニー・レヴィン、デヴィッド・トーンともにブルーフォード・レヴィン・アッパー・エクストリミティーズを結成する)。
David Torn - Voodoo Chile
David Torn - Lion of Boaz
David Torn - The Others
『ミック・カーン自伝』によれば、元JAPANのメンバーによるレイン・トゥリー・クロウのプロデューサーとしてデヴィッド・トーンにもオファーがあったというが(結局実現しなかった)、このときミック・カーンから「デヴィッド・トーンに似てる」と言われたデヴィッド・シルヴィアンが自分のギター・ソロをすべて消去したというエピソードは面白い。
Castalia カスタリア / マーク・アイシャム [スーパー・プロジェクト]
マーク・アイシャムが1988年にリリースした自己名義の作品。都会的なアンビエント・ミュージックで、ジャズっぽいフィーリングも感じられる。参加ミュージシャンは、グループ87時代の僚友であるパトリック・オハーンとピーター・マウヌ、テリー・ボジオに加え、デヴィッド・トーン。おまけにオープニング・ナンバー「The Grand Parade 」のベースはミック・カーン!という超のつく強力なメンツながら超絶プレイは皆無で、それぞれサポートに徹しているのが耳に優しい。心が安まる音楽とは、こういう作品を言うのだろう。
1987年にリリースされたデヴィッド・シルヴィアンの『シークレッツ・オヴ・ザ・ビーハイヴ』に参加していたマーク・アイシャムは、デヴィッド・トーンとともに翌年に行われたデヴィッド・シルヴィアンの「In Praise Of Shamans Tour」に参加するが、このツアーのセットリストには「The Grand Parade 」が加えられた。「Alive the Live」シリーズには88年のハマースミス公演がはいっているので、おそらく「The Grand Parade 」も収録されていると思う。
Grand Parade Music Video
David Sylvian - The Grand Parade
Group 87 / グループ87 [スーパー・プロジェクト]
今ではすっかり「映画音楽の人」になってしまったマーク・アイシャムだが、デヴィッド・トーンやデヴィッド・シルヴィアン作品の参加に見られるように、かつてはロック系のフィールドでも活躍していた。その中で彼自身がリーダーとしてバンド形態で活動した唯一のバンドがグループ87で、メンバーはマーク・アイシャムのほか、パトリック・オハーン(フランク・ザッパ・バンド~ミッシング・パーソンズのマルチ・ミュージシャン)、ピーター・マウヌ(テクスチャー・ギターともよばれるエフェクトを駆使したギター・サウンドの名手)の3名。デビュー・アルバム『グループ87』(1980)と、『A Career In Dada Processing』(1984)の2枚のアルバムを残した。ファースト・アルバム『グループ87』はロック系フュージョンの隠れた名盤であり、2017年に日本でCD化され、海外でも結構話題となった。都会的で耳あたりの良いサウンドは、夜のBGMに最適である。「マグニフィセント・クロックワークス」は、FM雑誌の冠番組「レコパル 音の仲間たち」に使用されていた。
レコパル音の仲間たち(松田聖子『シルエット』特集)
Group 87 - Magnificent Clockworks
Group 87 Moving Sidewalks
このアルバムにはともにザッパ・パンドの僚友であるテリー・ボジオとピータ・ウルフ(Jガイルズ・バンドのヴォーカリストとは同名異人)が全面的に参加している。こちらのピーター・ウルフは、スターシップの全米No.1「シスコはロック・シティ」のコンポーザー/プロデューサーで、80年代にはワン・チャンやゴー・ウェスト、ハート、ニック・カーショウなどに曲を提供したり、キーボードで参加するなどしていた人。奥さんと一緒にウルフ&ウルフ名義でも活躍していた。
テリー・ボジオがグループ87に触れているインタビュー
https://spice.eplus.jp/articles/272572
Cloud About Mercury / David Torn [スーパー・プロジェクト]
デヴィッド・トーンはアメリカ出身のギタリストで「英国ロック」ではないが、その才能とユニークなプレイを高く評価するミュージシャンは多い。元々はジャズ系のミュージシャンだが、プログレ系を中心とした英国のミュージシャンとの共演作も多く、いずれも一聴の価値ある作品である。
デヴィッド・トーンの1stソロ『Best Laid Plans』(1984)はGeoffrey Gordonとの共同名義だったので、この『クラウド・アバウト・マーキュリー』(1987)が、実質的に彼の初リーダー作としてよいと思う。バックを支えるのは、マーク・アイシャム(トランペット)、トニー・レヴィン(ベース、スティック)、ビル・ブルーフォード(ドラム)で、3人は全6曲のうち2曲に共作者としてクレジットされている。マーク・アイシャムはデヴィッド・シルヴィアンの作品に参加していたプレイヤーで、トニー・レヴィンとビル・ブルーフォードは、いうまでもなくキング・クリムゾンを支えてきた超絶ミュージシャンである。
このアルバムをリリースしたECMはジャズや現代音楽などを得意とするドイツのレーベルで、かつては「ニュー・エイジ・ミュージック」ともよばれたアンビエントな作風で知られる。そのレーベル・カラー通りの作品で、デヴィッド・トーンによる無国籍風の流れるようなギターが心地よく、リスナーのイマジネーションを刺激する作品である。超絶ミュージシャンが集まった作品にしばしば見られるインプロヴィゼイションの応酬的作品ではなく、メロディーがしっかりした「曲」になっているため、聞き込むのはもちろんBGMとしても使える。
当初デヴィッド・トーンは、元JAPANのミック・カーンにこのアルバムへの参加をオファーしたという。しかしミックは、ピーター・マーフィーとのダリズ・カーが不調だったことから自信を失っていた時機で、結局参加は実現しなかった。それでもデヴィッドはミックを励まし、半ば無理矢理に自分のツアーに参加させ、結果、このツアー参加をきっかけにミックは、同時期にレコーディングを行っていた『ドリームズ・オブ・リーズン・プロデュース・モンスターズ』(1987)の好評とも相まってミュージシャンとしての自信を取り戻した。この時期の事情についてはミック自身が『ミック・カーン自伝』の中で「デヴィッド・トーン」という節(マーク・アイシャムにも触れている)を設けて詳細に述べているが、トーンへの信頼と感謝、尊敬が伝わってくる最後の二行は、なんとも感動的。
David Torn's Cloud About Mercury - Frankfurt, Germany, 1987-02-07
トニー・レヴィンの代わりにステージに立つミック・カーン。
ミックの復帰作『ドリームズ・オブ・リーズン・プロデュース・モンスターズ』に参加したデヴッド・シルヴィアンは、同じ頃レコーディングしていた自身の作品『シークレッツ・オヴ・ビーハイヴ』(1987)に、デヴィッド・トーンとマーク・アイシャムを迎えることにした。これより前にも、マーク・アイシャムはデヴィッド・シルヴィアンの「レッド・ギター」(1984)に参加していたが、どちらかというとジョン・ハッセル(2021年死去)の方が多く用いられていた。しかし『シークレッツ・オヴ・ザ・ビーハイヴ』ではマーク・アイシャムの貢献度が大きく、とりわけ名曲「オルフェウス」はマーク・アイシャムのプレイがあってこそだと感じる。
David Sylvian - Words with the shaman~Orpheus (1987) with David Torn & Mark Isham
David Sylvian - Taking the veil (1987) with David Torn & Mark Isham
※オリジナル盤でこの曲のギターを弾いていたのは、ロバート・フリップ。
David Sylvian - Weathered Wall (1987) with David Torn & Mark Isham
※オリジナル盤でこの曲のトランペットは、ジョン・ハッセル。
アメリカでのツアーには、ビル・ブルーフォードの代わりに元フランク・ザッパ・バンドの超絶ドラマー、テリー・ボジオが参加した。テリーはかつてビルの後任として、エディ・ジョブソンのUKのメンバーになったことを考えると、なかなか面白い。このときのステージが、テリー・ボジオ/ミック・カーン/デヴィッド・トーンによる『ポリタウン』(94年)へとつながる。
Mark Isham w Bozzio, Torn, Karn & more 1988 10 06 Hollywood Palace, LA, CA
ECMのデヴィッド・トーンのウェブサイト
https://www.ecmrecords.com/artists/1435046090/david-torn
デヴィッド・トーンのウェブサイト
https://davidtornmusic.com/
デヴィッド・トーンの1stソロ『Best Laid Plans』(1984)はGeoffrey Gordonとの共同名義だったので、この『クラウド・アバウト・マーキュリー』(1987)が、実質的に彼の初リーダー作としてよいと思う。バックを支えるのは、マーク・アイシャム(トランペット)、トニー・レヴィン(ベース、スティック)、ビル・ブルーフォード(ドラム)で、3人は全6曲のうち2曲に共作者としてクレジットされている。マーク・アイシャムはデヴィッド・シルヴィアンの作品に参加していたプレイヤーで、トニー・レヴィンとビル・ブルーフォードは、いうまでもなくキング・クリムゾンを支えてきた超絶ミュージシャンである。
このアルバムをリリースしたECMはジャズや現代音楽などを得意とするドイツのレーベルで、かつては「ニュー・エイジ・ミュージック」ともよばれたアンビエントな作風で知られる。そのレーベル・カラー通りの作品で、デヴィッド・トーンによる無国籍風の流れるようなギターが心地よく、リスナーのイマジネーションを刺激する作品である。超絶ミュージシャンが集まった作品にしばしば見られるインプロヴィゼイションの応酬的作品ではなく、メロディーがしっかりした「曲」になっているため、聞き込むのはもちろんBGMとしても使える。
当初デヴィッド・トーンは、元JAPANのミック・カーンにこのアルバムへの参加をオファーしたという。しかしミックは、ピーター・マーフィーとのダリズ・カーが不調だったことから自信を失っていた時機で、結局参加は実現しなかった。それでもデヴィッドはミックを励まし、半ば無理矢理に自分のツアーに参加させ、結果、このツアー参加をきっかけにミックは、同時期にレコーディングを行っていた『ドリームズ・オブ・リーズン・プロデュース・モンスターズ』(1987)の好評とも相まってミュージシャンとしての自信を取り戻した。この時期の事情についてはミック自身が『ミック・カーン自伝』の中で「デヴィッド・トーン」という節(マーク・アイシャムにも触れている)を設けて詳細に述べているが、トーンへの信頼と感謝、尊敬が伝わってくる最後の二行は、なんとも感動的。
David Torn's Cloud About Mercury - Frankfurt, Germany, 1987-02-07
トニー・レヴィンの代わりにステージに立つミック・カーン。
ミックの復帰作『ドリームズ・オブ・リーズン・プロデュース・モンスターズ』に参加したデヴッド・シルヴィアンは、同じ頃レコーディングしていた自身の作品『シークレッツ・オヴ・ビーハイヴ』(1987)に、デヴィッド・トーンとマーク・アイシャムを迎えることにした。これより前にも、マーク・アイシャムはデヴィッド・シルヴィアンの「レッド・ギター」(1984)に参加していたが、どちらかというとジョン・ハッセル(2021年死去)の方が多く用いられていた。しかし『シークレッツ・オヴ・ザ・ビーハイヴ』ではマーク・アイシャムの貢献度が大きく、とりわけ名曲「オルフェウス」はマーク・アイシャムのプレイがあってこそだと感じる。
David Sylvian - Words with the shaman~Orpheus (1987) with David Torn & Mark Isham
David Sylvian - Taking the veil (1987) with David Torn & Mark Isham
※オリジナル盤でこの曲のギターを弾いていたのは、ロバート・フリップ。
David Sylvian - Weathered Wall (1987) with David Torn & Mark Isham
※オリジナル盤でこの曲のトランペットは、ジョン・ハッセル。
アメリカでのツアーには、ビル・ブルーフォードの代わりに元フランク・ザッパ・バンドの超絶ドラマー、テリー・ボジオが参加した。テリーはかつてビルの後任として、エディ・ジョブソンのUKのメンバーになったことを考えると、なかなか面白い。このときのステージが、テリー・ボジオ/ミック・カーン/デヴィッド・トーンによる『ポリタウン』(94年)へとつながる。
Mark Isham w Bozzio, Torn, Karn & more 1988 10 06 Hollywood Palace, LA, CA
ECMのデヴィッド・トーンのウェブサイト
https://www.ecmrecords.com/artists/1435046090/david-torn
デヴィッド・トーンのウェブサイト
https://davidtornmusic.com/