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Cloud About Mercury / David Torn [スーパー・プロジェクト]

 デヴィッド・トーンはアメリカ出身のギタリストで「英国ロック」ではないが、その才能とユニークなプレイを高く評価するミュージシャンは多い。元々はジャズ系のミュージシャンだが、プログレ系を中心とした英国のミュージシャンとの共演作も多く、いずれも一聴の価値ある作品である。

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 デヴィッド・トーンの1stソロ『Best Laid Plans』(1984)はGeoffrey Gordonとの共同名義だったので、この『クラウド・アバウト・マーキュリー』(1987)が、実質的に彼の初リーダー作としてよいと思う。バックを支えるのは、マーク・アイシャム(トランペット)、トニー・レヴィン(ベース、スティック)、ビル・ブルーフォード(ドラム)で、3人は全6曲のうち2曲に共作者としてクレジットされている。マーク・アイシャムはデヴィッド・シルヴィアンの作品に参加していたプレイヤーで、トニー・レヴィンとビル・ブルーフォードは、いうまでもなくキング・クリムゾンを支えてきた超絶ミュージシャンである。
 このアルバムをリリースしたECMはジャズや現代音楽などを得意とするドイツのレーベルで、かつては「ニュー・エイジ・ミュージック」ともよばれたアンビエントな作風で知られる。そのレーベル・カラー通りの作品で、デヴィッド・トーンによる無国籍風の流れるようなギターが心地よく、リスナーのイマジネーションを刺激する作品である。超絶ミュージシャンが集まった作品にしばしば見られるインプロヴィゼイションの応酬的作品ではなく、メロディーがしっかりした「曲」になっているため、聞き込むのはもちろんBGMとしても使える。
 当初デヴィッド・トーンは、元JAPANのミック・カーンにこのアルバムへの参加をオファーしたという。しかしミックは、ピーター・マーフィーとのダリズ・カーが不調だったことから自信を失っていた時機で、結局参加は実現しなかった。それでもデヴィッドはミックを励まし、半ば無理矢理に自分のツアーに参加させ、結果、このツアー参加をきっかけにミックは、同時期にレコーディングを行っていた『ドリームズ・オブ・リーズン・プロデュース・モンスターズ』(1987)の好評とも相まってミュージシャンとしての自信を取り戻した。この時期の事情についてはミック自身が『ミック・カーン自伝』の中で「デヴィッド・トーン」という節(マーク・アイシャムにも触れている)を設けて詳細に述べているが、トーンへの信頼と感謝、尊敬が伝わってくる最後の二行は、なんとも感動的。



David Torn's Cloud About Mercury - Frankfurt, Germany, 1987-02-07
トニー・レヴィンの代わりにステージに立つミック・カーン。

 ミックの復帰作『ドリームズ・オブ・リーズン・プロデュース・モンスターズ』に参加したデヴッド・シルヴィアンは、同じ頃レコーディングしていた自身の作品『シークレッツ・オヴ・ビーハイヴ』(1987)に、デヴィッド・トーンとマーク・アイシャムを迎えることにした。これより前にも、マーク・アイシャムはデヴィッド・シルヴィアンの「レッド・ギター」(1984)に参加していたが、どちらかというとジョン・ハッセル(2021年死去)の方が多く用いられていた。しかし『シークレッツ・オヴ・ザ・ビーハイヴ』ではマーク・アイシャムの貢献度が大きく、とりわけ名曲「オルフェウス」はマーク・アイシャムのプレイがあってこそだと感じる。


David Sylvian - Words with the shaman~Orpheus (1987) with David Torn & Mark Isham


David Sylvian - Taking the veil (1987) with David Torn & Mark Isham
※オリジナル盤でこの曲のギターを弾いていたのは、ロバート・フリップ。


David Sylvian - Weathered Wall (1987) with David Torn & Mark Isham
※オリジナル盤でこの曲のトランペットは、ジョン・ハッセル。

 アメリカでのツアーには、ビル・ブルーフォードの代わりに元フランク・ザッパ・バンドの超絶ドラマー、テリー・ボジオが参加した。テリーはかつてビルの後任として、エディ・ジョブソンのUKのメンバーになったことを考えると、なかなか面白い。このときのステージが、テリー・ボジオ/ミック・カーン/デヴィッド・トーンによる『ポリタウン』(94年)へとつながる。


Mark Isham w Bozzio, Torn, Karn & more 1988 10 06 Hollywood Palace, LA, CA

ECMのデヴィッド・トーンのウェブサイト
https://www.ecmrecords.com/artists/1435046090/david-torn

デヴィッド・トーンのウェブサイト
https://davidtornmusic.com/



Cloud About Mercury

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  • アーティスト: David Torn
  • 出版社/メーカー: ECM
  • 発売日: 2019/01/18
  • メディア: CD




ミック・カーン自伝

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  • 出版社/メーカー: リットーミュージック
  • 発売日: 2018/01/04
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