Original Mirrors イアン・ブロウディがスティーヴ・アレンとともに結成したユニット [ライトニング・シーズ]
イアン・ブロウディというと「あのビッグ・イン・ジャパンで.....」という話からスタートするのは当然だが、BIJはEPとシングルのみのリリース。なので、彼のミュージシャンとしての本格的な活動は、元デフ・スクールのスティーヴ・アレン(デフ・スクール時代は、エンリコ・キャデラックと名乗っていた)と結成したオリジナル・ミラーズからである。オリジナル・ミラーズ~ケアー~ライトニング・シーズと聴いていくと、イアン・ブロウディの音楽的引き出しの多さがよくわかる。
オリジナル・ミラーズは『Original Mirrors』(1980)と『Heart-Twango & Raw-Beat』(1981)の2枚のアルバム(いずれもマーキュリーから)を残した。イアンとスティーヴ以外のメンバーとして、初期XTCのキーボード、ジョナサン・パーキンスや、以前トーク・トークの記事でも触れた腕利きベーシストのフィル・スポルディング(GTR~マイク・オールドフィールド・バンド)、それにイギリスの国民的バンド、スティタス・クォーのメンバーとして1985年のライヴ・エイドにも出演したドラマー、ピート・キルヒャーも在籍していた。それぞれに結構な腕利きばかりである。
Original Mirrors - Boys Cry
『Heartbeat: The Best Of Original Mirrors』(1996)は、「The Best Of」と銘打っているが、2枚のオリジナル・アルバムに収録されていた全20曲を収録した2イン1CDである。残念ながらラスト・シングル「20,000 Dreamers」は収録されていない。2作ともイアンのギターとスティーヴのヴォーカルを全面に出した、ちょっとヒネったパワー・ポップ。若きエネルギーがストレートに伝わってくるサウンドには、後のライトニング・シーズでのドリーミーな雰囲気は感じられないが、時折はいるコーラスワークやシンセの使い方などのアレンジと、キャッチーなメロディーのセンスは流石といったところ。オリジナル・ミラーズと同時期にファースト・アルバムをリリースした、同じくリヴァプールのヨッツ(Yachts:イッツ・イマテリアル~クリスチャンズに関わったヘンリー・プリーストマンのバンドで、シングルのプロデューサーは元デフ・スクールのクライヴ・ランガーだった)に近いものを感じる。ヨッツのファースト・アルバムとともに、パンクからニュー・ウェーヴへの過渡期を象徴するような作品。
Jeopardy / The Sound ザ・サウンドのファースト・アルバム [ザ・サウンド]
ザ・サウンドは初期2枚のアルバムをコロヴァからリリースしたこともあり、当時はエコー&ザ・バニーメンと比較されることもあったが、人気はエコバニ遠く及ばなかった。バンド解散後にはフロントマンのエイドリアン・ボーランドが列車に飛び込んで自殺するということもあり、今では「不遇な悲劇のバンド」の文脈で語られることが多い。しかし音楽のクオリティ面ではエコバニに勝るとも劣らず、UKニュー・ウェーヴ/ポスト・パンクの至宝(と僕は思っている)である。
1980年にリリースされたファースト・アルバム『Jeopardy』は、ジョイ・ディヴィジョンからの影響が強く感じられる音づくり。確かにオリジナリティという点では物足りないが、イアン・カーティスに比べるとエモショーナルなエイドリアン・ボーランドのヴォーカルと、緩急織り交ぜた巧みなアレンジとが相まって、デビュー作とは思えない完成度である。2枚目『フロム・ザ・ライオンズ・マウス』、3枚目『オール・フォール・ダウン』といった傑作の布石として、その後の活躍を予感させる秀作。"We will wait for the night , We will wait "という内ジャケに印刷されたフレーズが、しっくりくる。
The sound - I can't escape myself
The Sound - Unwritten Law
Night Versus Day
Jeopardy/from the Lion's Mouth
- アーティスト: Sound
- 出版社/メーカー: Imports
- 発売日: 2014/05/13
- メディア: CD
The Gist Complete : Another Way Of Being ザ・ジスト [ラフ・トレード・レコード]
ヤング・マーブル・ジャイアンツのスチュアート・モクサムが、YMG解散前にスタートさせていたプロジェクトがザ・ジスト。YMG解散後は弟のフィリップ・モクサムも加わり、ラフ・トレードから『Embrace The Herd』(1983)をリリースした。その後アルバム未収曲などを集めたコンピレーション『Holding Pattern』(2017)、『Interior Windows』(2020)がリリースされ、昨年にはこれらを集めた2枚組『Another Way Of Being』が日本オンリー(ハヤブサ・ランディグス)でリリースされた。これはザ・ジストの音源はほ網羅されているスグレものだ。
YMGの雰囲気を継承しつつも、テクノ・サウンドやラテン風、レゲエまで取り入れた明るいサウンドが彼らの持ち味。シングル「Love At First Sight」などスチュアートのヴォーカルも悪くないが、様々な女性ヴォーカルをゲストに迎えた楽曲群がそれぞれに魅力的。 なかでもウェンディ・スミス(プリファブ・スプラウトのウェンディとは同名異人で、ウィークエンドのジャケットなどを描いたイラストレーター)がヴォーカルの「Public Girls」は、「帰ってきたYMG」という感じで、なかなかよい。「Clean Bridges」はシンプルな女性コーラスだが、アリソン・スタットンも参加している。その他、デビー・プリッチャード(ウィークエンド~アリソン・スタットン&スパイクのスパイクと、ボム&ダガーやスパイク&デビーで活動していた)もヴォーカルで参加している(「Stones And Sunlight」「Assured Energy」)。
解散後にリリースされた『Holding Pattern』(2017)、『Interior Windows』(2020)を収録したCD2を聴くと、モクサム兄弟の多様な音楽性が垣間見えてなかなか面白い。凡庸なテイクもあり散漫な印象も受けるが、ネオアコ系の曲はどれもよい。「Public Girls」のデモなどは、公式ヴァージョンよりもこちらの雰囲気が僕は好きだ。
The Gist - Public Girls
The Gist - Clean Bridges
The Gist Stones And Sunlight #2
THE GIST ザ・ジスト/The Gist Complete:Another Way Of Being (解説:中村慶 対訳:多屋澄礼)国内盤 2CD
- アーティスト: THE GIST
- 出版社/メーカー: CA VA? RECORDS / HAYABUSA LANDINGS
- 発売日: 2021/05/26
- メディア: CD