LET'S CHANGE THE WORLD WITH MUSIC / PREFAB SPROUT [プリファブ・スプラウト]
プリファブ・スプラウト『レッツ・チェンジ・ザ・ワールド・ウィズ・ミュージック』
正直言って「待ちに待った」という作品ではなかった。でも買わずにはおられなかったこの作品。パディのソロながら「プリファブ・スプラウト」名義になっているのは、もともと『ヨルダン:ザ・カムバック』のあとにリリースされる予定でレコーディングされながらお蔵入りとなった曲をパディが完成させた作品だから。だからあちこちに「ああ、ここにはウェンディのコーラスがはいるはずだったのだね」とはっきり分かる箇所がある。実際僕はウェンディのコーラスと錯覚した箇所がいくつもあった。また「トーマス・ドルビーならこうするだろう」とパディが考えたに違いない部分も多い。そう、これはパディ・マクアルーンのソロ、ではなくて「プリファブ・スプラウト」の作品だ。
オリジナルの音源は1993年にレコーディングされたものということで、今聞くと少々違和感(=古くささ)を感じるのは確か。でも80~90年代に活躍したプリファブ・スプラウトというバンドのことを知っている人には、この作品が持つ意味は小さくないはず。それにメロディーの素晴らしさ、ヴォーカルの優しさ、カラム・マルコムによる独特の音空間......まぎれもないプリファブ・スプラウトの音世界がここにある。蒼い瑞々しさも健在だ。最初の「レット・ゼア・ビー・ミュージックはラップで始まるファンキーな曲調ながら、はっきりしたメロディー・ラインはまさにパディ節。
でもすべての楽曲には美しさの中にもの悲しさが感じられる(そう感じるのは僕自身の感傷なのだろうか?)。93年の5月に何があったのかは知るよしもないが、パディは未完であったこのアルバムを完成させることで、プリファブ・スプラウトに決着をつけたのだろうと思う。僕も彼と同じ網膜剥離と30年以上つきあっているのだが、ブックレットに載っている写真を見ると、あまり目の状態もよくないような印象を受ける。Welcomeback, Paddy!とは手放しで喜べない。彼も言っているように80~90年代は「water under the bridge」だ。でもこのアルバムを聴きながら、昔を懐かしみ思い出にひたるのも悪くない。
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