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ジョン・バレット音源とロジャー・スコット音源 [ビートルズ]

 1980年代の終わりに、ビートルズのアウトテイクを集めた『ULTRA RARE TRACKS』(TSP)というコレクターズCDがリリースされた。これまで聴いたこともなかったレア・テイクがオフィシャル並みの高音質で収録されていたことから、大きな話題となったシリーズである。それに続いたのがYELLOW DOGの『UNSERPASSED MASTERS』シリーズで、使用されたマスターは『ULTRA RARE TRACKS』とほぼ同一ながら、分量的に『ULTRA RARE TRACKS』を凌駕していたことから、森山直明さんをして「一言で言うと「ウルトラ・レア」は「アンサパ」に吹き飛ばされたということでしょう」と言わしめたほどである(バロック出版『ジャパンワックス1994』29㌻)。マーク・ルウィソーン著『レコーディング・セッション(ズ)』(邦訳はシンコー・ミュージック)と一曲一曲突き合わせながら聴いた諸氏も多いと思うが、95年から始まった一連の『アンソロジー』プロジェクトも、『アンサパ』が影響を与えたことは想像に難くない。

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 ところで『ウルトラ・レア』や『アンサパ』のソース音源はいったいどこから流出したのだろう。普通に考えれば、『ULTRA RARE TRACKS』と時を同じくして出版された『レコーディング・セッション』の著者であるマーク・ルウィソーンがリーク元であると考えるのが妥当である。百歩譲ってルウィソーン本人ではなくても、彼の周囲にいた人物が犯人だろうと考えるのはごく自然なことだ。『ブラック・マーケット・ビートルズ』(邦訳はバロック出版)では、ルウィソーンが『レコーディング・セッション(ズ)』を執筆する際に雇ったアシスタント(EMIの保管庫からテープを持ち出したり返却する役割を果たしていた)が怪しいという噂を紹介している。また、VIGOTONEの『Turn Me On Dead Man: The John Barrett Tapes』付属のブックレットには、ルウィソーン本のもとになる調査を行ったアビイ・ロード・スタジオのエンジニア、ジョン・バレットが作成したテープが、DJのロジャー・スコット(1943~89)にわたり、『ウルトラ・レア』や『アンサパ』のソースなったと記されており、90年代にはまだバレット音源とスコット音源の混乱が見られる。しかし現在では、音源をリークしたのはロジャー・スコットであったことが明らかとなっており、英語版ウィキペディアにおけるRoger Scottの㌻には、「The Leaked Beatles Session Tapes」という項目があり、" In later years Barrett, who died in 1984 (and also Beatles historian Mark Lewisohn) had been accused as the source of the leaked recordings. " とジョン・バレットやマーク・ルウィソーンが濡れ衣を着せられてきたことに触れている。

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 ロジャー・スコットは、1983年にアビイ・ロード・スタジオで開かれたイベント「THE BEATLES AT ABBEY ROAD」でDJを務めた人物で、彼はこの時だけでなく翌年自分のラジオ番組をつくる時にもEMIに保管されているテープを聴く許可を得ており、その時にコピーを作成していたという。そのロジャー・スコット音源をまとめたのが『THE COMPLETE ROGER SCOTT TAPES』。これまで「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」や「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」などバラバラに収録されていた各テイクをiTunesのプレイリストでまとめて「ジョージ・マーティンになった気分」を味わってきたものだが、これがあればそういった作業も不要である。音もよい。
 メーカー・インフォ:https://www.navyblue-sound.jp/product/4234

 これと同時にリリースされたのが『THE COMPLETE JOHN BARRETT TAPES』。ジョン・バレットは、元アビイ・ロード・スタジオのエンジニアで、彼が病床でまとめたレコーディングの記録をもとにルウィソーンが編集したのが『レコーディング・セッションズ』である。ウィキペディア日本語版における「ビートルズの海賊盤」の項目ではジョン・バレットも流出に関わったかのような記述があるが、彼は1984年に亡くなっているのでジョン・バレットが直接流出させたわけではない。ロジャー・スコットがDJを務めたイベント「THE BEATLES AT ABBEY ROAD」もジョン・バレットの調査記録をもとにした企画だったが、彼は『セッションズ』というタイトルの未発表テイク集にも関わっていた。結局『セッションズ』はオクラ入りとなったが、これら一連の企画のために試聴用として作成していたテープをまとめたのが、『THE COMPLETE JON BARRET TAPES』である。VIGOTONEの『Turn Me On Dead Man: The John Barrett Tapes』など、「バレット音源」と銘打ったタイトルはかつてあったものの、これを決定版としてよいと思う。ディスク4は、ロジャー・スコットのDJを含む「THE BEATLES AT ABBEY ROAD」の断片。ディスク5はビートルズ解散後にアビイ・ロードでレコーディングされた音源からだが、何といっても1曲目、プラスティック・オノ・バンドのブルース・ジャムにおけるオノ・ヨーコの「お前のおっかぁは~おっかぁは~お前なんぞ忘れてしまっているよ~お前のおっかぁは死んじまった~」という絶叫がなんともエグい。もしかしてジョンの「マザー」の原型?ジョージの曲がどれもよくて泣ける。

ジョン・バレット音源の一覧:http://877.fc2web.com/2003/jbt2.html

メーカーインフォ:https://www.navyblue-sound.jp/product/4233

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