From A to B / New Musik [トニー・マンスフィールド]
1980年代はミキサーやプロデューサーが脚光を浴びた時代だった。アーサー・ベイカーやシェップ・ペディボーン、ストック・エイトキン・ウォーターマン、ジェリービーン、ジミー・ジャム&テリー・ルイス、トレヴァー・ホーン、スティーヴ・リリーホワイトなど、プロデューサー次第で売れ行きが変わるような時代であり、外国人プロデューサーを起用する日本人アーティストも少なくなかった。トニー・マンスフィールドもその一人。ネイキッド・アイズやa-haなどエレ・ポップ系を得意とするプロデューサーで、日本のアーティストとしては高橋幸宏や遊佐未森、彼女のプロデューサーである外間隆史などの作品にクレジットされている。
ただ、私にとってトニー・マンスフィールドはプロデューサーというよりも、ミュージシャンというイメージだ。私がトニマンに関心を持ったきっかけは、彼個人ではなく、彼のバンド、ニュー・ミュージックをYMOのメンバーが絶賛していたことである。1960年代後半生まれの人なら記憶があると思うが、当該世代にとってYMOは音楽というよりも文化であった。『増殖』がリリースされたころ、フジフィルムのカセットテープ、フジカセットがスポンサーとなって大々的な販促キャンペーンが実施された。「工場はフル稼働」のポスターやカセットレーベルをもらうため、小遣いの大半をカセットテープにつぎ込んだものだ。カセットテープというと、ソニー・TDK・マクセルが御三家で、それ以外のメーカー製品は近所の店には置いてなかった。なので、親に頼み込んで熊本市内の量販店まで連れて行ってもらったものである。そのYMOのメンバーが絶賛していたのだから、買わずにはおれなかった。
ニュー・ミュージックは『フロム・A・トゥ・B』(80年)、『エニウェア』(81年)、『ワープ』(82年)の3枚を残しているが、いずれも傑作である。トニー・マンスフィールドというと「テクノ」のイメージが強い人だが、ファースト・アルバム『フロム・A・トゥB』は、爽やかでアコ-スティックな印象の作品である(シンセは多用されているが)。ポップで優しいメロディーライン、そしてトニー・マンスフィールドの声質によるところが大きい。80年代に彼がプロデュースした作品をいま聴くと、シンセ・ドラムが過剰で古くさく感じらられる曲もあるが、ニュー・ミュージックはいまでも十分聴ける。ホワイトノイズとも言われる生活音を取り入れた爽やかで温かみのあるサウンドは、とても耳あたりがよい。
New Musik - Straight Lines
【From A】
01. Straight Lines
02. Sanctuary
03. A Map Of You
04. Science
05. On Islands
【To B】
06. This World Of Water
07. Living By Numbers
08. Dead Fish (Don't Swim Home)
09. Adventures
10. The Safe Side
2001年に日本のエピックから発売された『フロム・A・トゥ・B』は、前年に英エドセルからリリースされた『From A To B ...Plus』よりも2曲多い8曲のボーナストラックが収録されている。日本盤にはエドセル盤に収録されていた「Tell Me Something New」が未収のように見えるが、日本盤では「Tell Me Something New」が「Missing Persons」から連続で収録されており、トラック分けされていないだけのことである。「Missing Persons」と「Tell Me Something New」は、「This World of Water」のカップリング曲として、連続で収録されていたので、このような表記になったのかもしれない。
『From A To B ...Plus』Bonus Tracks EDCD 678
11. Sad Films
12. Missing Persons
13. Tell Me Something New
14. She's A Magazine
15. Chik Musik
16. Magazine Musik
『フロム・A・トゥ・B』Bonus Tracks ESCA 7850
11. Missing Persons
12. She's A Magazine
13. Chik Musik
14. Magazine Music
15. Sad Films
16. Under Attack
17. And
「Chik Musik」は、ナイル・ロジャースのシック(バンド名の綴りはChikではなくChic)の全米No.1ヒット「Good Times」(79)のパターンをパクった曲だが、後にネイキッド・アイズの「Promises、Promises」でも使われた(キャプテン・センシブルの「Wot」でも使われている)。ネイキッド・アイズは、トニマンがプラネット・ハ・ハで組んでいたロブ・フィッシャーのバンド。第2のニュー・ミュージックになれなかったプラネット・ハ・ハに代わり、彼はネイキッド・アイズを第2のニュー・ミュージックにしたかったのだろうか?
New Musik - Chik Musik (1980)
Chic - Good Times
Naked Eyes - Promises, Promises (Official Video)
Captain Sensible - Wot -
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