The Golden Age Of Wireless / Thomas Dolby [トーマス・ドルビー]
1981年に『ビルボード』のナショナル・チャートで9週間連続2位(結局1位にはなれず)と大ヒットを記録したフォリナーの「ガール・ライク・ユー」でイントロの印象的なシンセを弾いていたのがトーマス・ドルビー。その翌年、1982年にリリースしたシングル「彼女はサイエンス」はイギリスでのチャート・アクションは振るわなかったものの、翌83年にアメリカでは5位まで上がるヒットとなった(プロデューサーは、トーク・トークを手掛けたティム・フリーズ・グリーン)。「彼女はサイエンス」リリース直後に発表された彼のファースト・アルバムが『The Golden Age Of Wireless』(邦題:光と物体:82年)である。
Thomas Dolby - She Blinded Me With Science
Thomas Dolby - She Blinded Me With Science (Live)
クレジットされているゲストも、様々に興味深い。まず共同プロデューサーはティム・フリーズ・グリーン。プロデューサー&コンポーザーとして、トーク・トークを支えた人物である。矢野顕子版「Radio Silence」のシンセでクレジットされているのは、ミュート・レコードの創設者ダニエル・ミラー。「彼女はサイエンス」のヴァイオリンは、ロック系のミュージシャンから高い信頼を得ているサイモン・ハウス。デヴィッド・ボウイの『ロジャー』、JAPANの『錻力の太鼓』、デヴィッド・シルヴィアンの「Some Kind of Fool」などに参加しているヴァイオリニストだ。オーストラリアのバンド、アイスハウスの元メンバーであるサイモン・ロイドは、「Windpower」の管楽器でクレジットされている。複数の曲に参加しているのは、ギターのケヴィン・アームストロングと、ベースの故マシュー・セリグマン。この二人はJAPAN関連の作品などニュー・ウェーヴ系に強いプレイヤーだが、かつてのバンド仲間どうしでもある。マシュー・セリグマンはブルース・ウーリー&カメラ・クラブで、トーマスト・ドルビーとはバンド仲間だったこともある。85年のライヴ・エイドでは、トーマスとマシューがデヴィッド・ボウイのバックを一緒に務めることになる。かつてのリーダー、ブルース・ウーリーもバック・ヴォーカルで参加している。XTCのアンディ・パートリッジは、「Europa And The Pirate Twins」のハーモニカと「Leipzig」「Urges」の共同プロデュースで参加。ついでに「Urges」のパーカッションもアンディ。アンディ・パートリッジがトーマス・ドルビーについて語っていたのは、確か『ストレンジ・デイズ』に載っていたインタビューだったと思う。「Radio Silence」のバック・ヴォーカルは、当時坂本龍一と事実婚の関係だった矢野顕子。彼女は1980年のイギリスツアーにも参加していたことから、「日本のケイト・ブッシュ」とも言われイギリスでは結構な知名度だったらしい。「彼女はサイエンス」に出てくる "Good heavens, Miss Sakamoto, you're beautiful!"の「ミス・サカモト」は矢野顕子のことだという説がある。三つ編みのヘアスタイルで、ニナ・ハーゲンをマイルドにしたようなリーナ・ラヴィッチは、「Cloudburst At Shingle Street」のバック・ヴォーカルで参加。
『The Golden Age Of Wireless』には様々なヴァリエーションがある。82年にリリースされた初期盤には「彼女はサイエンス」は収録されておらず、英国盤は9曲で、米国盤は10曲だった。しかも収録曲が微妙に違っており、米国盤では「TheWreck of the Fairchild」がカットされ、アンディ・パートリッジが共同プロデュースしたソロ・デビュー・シングル「Urges」と「Leipzig」が収録されている。さらに「Airwaves」はシングル・ヴァージョン、「Radio Silence」はギター・ヴァージョン(矢野顕子は参加していない)というヴァージョン違いでの収録である。
83年に「彼女はサイエンス」がヒットしたことから、83年リリース盤からは英盤・米盤ともに同曲がアルバムの1曲目に収録されることになった。まず83年英盤は、82年米盤と同じく「The Wreck of the Fairchild」がカットされ、「One of Our Submarines」と「彼女はサイエンス」のシングル・ヴァージョンが収録されて10曲仕様である。また83年米盤は、82年米盤から「Urges」 と「Leipzig」をカットし、英盤同様「One of Our Submarines」が収録された。結果として83年盤は米盤・英盤ともに同内容になった.....と思いきや、米盤の「彼女はサイエンス」は5分を超える12インチ・ヴァージョン、「Windpower」「Airwaves」はシングル・ヴァージョン、「Radio Silence」はやはりギター・ヴァージョンと、4曲がヴァージョン違いで収録された。当時日本盤を発売していた東芝EMIは、英盤と米盤で仕様が異なるときは英盤を使うという内規でもあったのか、ネイキッド・アイズのシングル「僕はこんなに」もイギリス・ヴァージョンでのリリースだった。
01. She Blinded Me with Science(シングル・ヴァージョン)
02. Radio Silence(矢野顕子参加ヴァージョン)
03. Airwaves
04. Flying North
05. Weightless
06. Europa and the Pirate Twins
07. Windpower
08. Commercial Breakup
09. One of Our Submarines
10. Cloudburst at Shingle Street
現行盤は、82年英盤の9曲に5曲のボーナス・トラックを収録した14曲仕様になっている。「Windpower」「Airwaves」のシングル・ヴァージョンは、ベスト・アルバム『レトロスペクタクル』に収録されている。2009年のコレクターズ・エディションに収録されていた「Airwaves」などのデモは収録されていない。
【2019年版 The Golden Age Of Wireless 『光と物体』】
01. Flying North
02. Commercial Breakup
03. Weightless
04. Europa and the Pirate Twins
05. Windpower
06. The Wreck of the Fairchild
07. Airwaves
08. Radio Silence
09. Cloudburst at Shingle Street
[BONUS TRACKS]
10. One of Our Submarines
11. She Blinded Me with Science
12. Urges
13. Leipzig
14. Radio Silence (Guitar Version)
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