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Rain Tree Crow レイン・トゥリー・クロウ [デヴィッド・シルヴィアン]

 デヴィッド・シルヴィアンの評伝『デヴィッド・シルヴィアン』(クリストファー・ヤング著、邦訳出版は2016年)と、『ミック・カーン自伝』(邦訳出版は2011年)は当然ながら重なる記述が少なくない。二冊を読み比べるのは結構楽しいが、なかでも、『レイン・トゥリー・クロウ』のレコーディングに関する部分は大変面白い。筆法鋭くデヴィッドを批判するミック自身による記述の方が克明で説得力が感じられ、『デヴィッド・シルヴィアン』はデヴィッド自身が書いたものではないがその記述からは『ミック・カーン自伝』への弁明という印象を受ける。

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 デヴィッド・シルヴィアンによれば、アルバム『レイン・トゥリー・クロウ』は、バンド形態によるインプロヴィゼイションを発展させていった作品だという。そのため完成までにかなりの時間を費やしたことから制作費用も膨れあがり、デヴィッドの持ち出しもかなりあったらしい。『レイン・トゥリー・クロウ』が事実上デヴィッド・シルヴィアンのソロ作品になってしまったのは、経済的な部分を大きく担った彼が主導権を握ったからだろう。ドラムはストイック、ベースに至ってはミック・カーンとはわからないが(彼はフレットレスではなく5弦ベースを使っている)、ミックに関して言うなら、「New Moon at Red Deer Wallow」でのバスクラなどホーン系楽器でのプレイがなかなよい。静謐な中にもイイ意味での緊張感が感じられるのは、ミックが書いている当時のレコーディング状況のなせる業だろうが、元JAPAN組を揃えた必然性は感じられない。

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 リリース当時の雑誌における新譜紹介では、「見事な傑作」(『ミュージック・マガジン』1991年4月号)とか「正直これ程クオリティの高いものになるとは思っていなかった」(『クロスビート』同)など、おおむね高評価であるが、要は「同窓会的なノリだろうと思って聴いたら、丸ごとデヴィッド・シルヴィアンのソロ作品で、これまで通りのアーティスティックな作品だった」ということである(日本盤のオビや雑誌の広告にも「伝説復活!」という文字が躍っている)。これまでキッチリと作り込んできたデヴィッドが、ホルガー・シューカイとのコラボを経て「即興演奏でつくりあげる」という方法論を選択したことは新しかったのだろうが、完成したのは「安定のデヴィッド・ワールド」な作品であった。

Rain Tree Crow - Blackwater


 当初、マイケル・ブルック(デヴィッド・シルヴィアンのツアーに同行したカナダ出身のギタリスト)が、次いでデヴィッド・トーンがプロデュースを行う予定だったものの結局二人ともクビになったという。ミックの文章からは、デヴィッド・トーンの降板に対する無念さがにじみ出ている。このアルバムの完成を待たずにデヴィッド・トーンの『DoorX』のレコーディングに参加したミック・カーンは、「正直、同じ時期に進行したこの二つのプロジェクトはいろんな部分で雲泥の差があった。」と述懐している(『ミック・カーン自伝』311㌻)。






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