THE QUEEN IS DEAD / THE SMITHS [ザ・スミス]
THE QUEEN IS DEAD / THE SMITHS
01. The Queen Is Dead
02. Frankly, Mr. Shankly
03. I Know It's Over
04. Never Had No One Ever
05. Cemetry Gates
06. Bigmouth Strikes Again
07. The Boy with the Thorn in His Side
08. Vicar in a Tutu
09. There Is a Light That Never Goes Out
10. Some Girls Are Bigger Than Others
ザ・スミスはシングル主体のバンドだったが、彼らが残した4枚のオリジナル・アルバムのうち最高傑作は3枚目の『ザ・クイーン・イズ・デッド』(1986)とするのが一般的だろう。チャートの1位には届かなかったが、バンドの音楽的ピークはこのアルバムだった。とりわけジョニー・マーの充実度には目を見張るものがある。「セメタリー・ゲイツ」「心に茨を持つ少年」での流麗なギターリフ、ソングライティング、そしてストリングスのアレンジなど「才気ほとばしるギター職人」とでも言うべき仕事ぶりだ。彼にひきずられるかのようにモリッシーのヴォーカルは表現力を増しており、ユーモアの効いたシニカルな歌詞も持ち味を十分発揮している。その一方で、ベースのアンディ・ルークの薬物問題とそれにともなうクレイグ・ギャノン(元ブルーベルズ)の去就といった問題もバンドは抱えていた時期で、トータル40分にも満たないこのアルバムにいま耳を傾けると「危ういカッコよさ」をも漂わせているようだ。シングル・カットされたアグレッシヴな「ビッグ・マウス・ストライクス・アゲイン」も悪くないが、流れるような美しさを湛えた「セメタリー・ゲイツ」「心に茨を持つ少年」「ゼア・イズ・ア・ライト」の3曲は、ザ・スミスの曲の中でもトップクラスの出来の良さだと思う。この3曲がはいっているという点だけでも、私にとっては奇跡的な一枚である。
Cemetry Gates
2017年にはCD3枚+DVD1枚の4枚組デラックス・エディションがリリースされ、同年のレコード・ストア・デイで「クイーン・イズ・デッド」と「心に茨を持つ少年」のシングルがリリースされた。ディスク2はレア音源集、ディスク3はライヴ盤、ディスク4(DVD)は本編のハイレゾ音源とデレク・ジャーマンによるヴィデオ・クリップ集というセット。ライヴ盤にエンジニア/ミキサーとしてクレジットされているのは、ライヴ盤『ランク』のプロデューサー、グラント・ショウビズである。「心に茨を持つ少年」のシングルに"Special Thanks To"とクレジットされ、ザ・スミスがバンドとしてのキャリアをスタートさせた頃から解散までほとんどのライヴでエンジニアを務めたと言われている彼以外に、彼らのライヴ盤を任せるにふさわしい人物はいないだろう。フランク・チキンズ(「♪目つぶし投げてドロンドロン」の「ウィー・アー・ニンジャ」の日本人女性二人組)のメンバー、カズコ・ホーキさん(彼女は大平正芳元首相の親戚らしい)を妻とするグラント・ショウビズは、バンド解散後にジョニー・マーが参加したザ・フォールを支えてきた人物でもある。
【デラックス・エディションの内容】
https://www.discogs.com/ja/The-Smiths-The-Queen-Is-Dead/release/11025699
ディスク3はアルバム・リリースとほぼ同じ時期(1986年夏)のアメリカ・ツアーでの音源。86年秋のライヴを収めたライヴ盤『ランク』の約2カ月前のステージだが、『ランク』の方が熱気が伝わってくる。やはりアメリカよりもイギリスでの人気が高かったのだろう。プレイ自体も『ランク』の方がよく聞こえるのは、シビアなアメリカ・ツアーを通じて成長したのか、あるいは『ランク』にadditional guitarsとクレジットされているクレイグ・ギャノンの名前が『デラックス・エディション』には見あたらないので、ギターはジョニー・マーだけだったため音の厚みに欠けているのか。
【「ザ・クイーン・イズ・デッド・ツアー」1986年8月5日】
http://www.passionsjustlikemine.com/live/smiths-g860805.htm
The Boy With The Thorn In His Side
「心に茨を持つ少年」は、『ザ・クイーン・イズ・デッド』よりも9か月も早くシングルとしてリリースされていた。シングル曲をアルバムに入れないことも珍しくない彼らなので、この曲が『ザ・クイーン・イズ・デッド』に入っていたことは少々意外だった。ただしシングル・ヴァージョンとアルバム・ヴァージョーンには違いがあり、シングル・ヴァージョンではマリンバがバックでリズムを刻んでいるが、アルバム・ヴァージョンではシンセによるストリングスに変更されている。終盤におけるモリッシーのヨーデル風ヴォーカルには、ストリングスの流れるような感じがマッチしているように感じる(デラックス・エディション収録の「デモ・ミックス」は、イントロにドラムがはいってるだけで、アルバム・ヴァージョンとああまり変わらない)。という具合にシングル・ヴァージョンとアルバム・ヴァージョンは違うのだが、英国盤『SINGLE BOX』に収録されているCDシングルは、『シングル・ボックス』なのにアルバム・ヴァージョンが収録されている。「心に茨を持つ少年」の12インチに収録されている2曲「ラバーリング」と「アスリープ」はともにアルバム未収ながら名曲で、オリジナルはこの2曲がメドレー("You are sleeping, you do not want to believe..."というナレーションがループでリピートされ、バックのスクラッチノイズに被って「アスリープ」が始まる)になっているが、『SINGLE BOX』のCDシングルに収録されているこの2曲はブツ切り(『デラックス・エディション』はオリジナル通りにメドレーで収録)。ということで『SINGLE BOX』収録の「心に茨を持つ少年」は、厳密には「シングル」とは言い難い。なお「心に茨を持つ少年」の日本盤アナログ12インチ(徳間ジャパン 15RTL-3009)には、上記3曲の他「オシスレイト・ワイルドリー」(「ハウ・スーン・イズ・ナウ?」の12インチに収録された曲)を加えた全4曲となっている。
Rubber Ring
Asleep
「心に茨を持つ少年」のシングル・ヴァージョンは、ベスト盤『ザ・ワールド・ウォント・リッスン』に収録されている。『ワールド・ウォント・リッスン』は私の愛聴盤の1つで、ジャケットのセンスの良さはザ・スミス作品の中でもトップクラスだと思う(裏ジャケ写真は『Complete』という編集盤の表ジャケットになった)。一部を拡大したCD盤よりアナログ盤の方がいいジャケットだと思うが、特にオーストラリア盤アナログ2枚組(https://www.discogs.com/ja/The-Smiths-The-World-Wont-Listen/release/556087)は選曲もいいし、中袋のデザインもいい。オーストラリア盤2枚目は米サイアーが編集した『ラウダー・ザン・ボム』 から『ワールド・ウォント・リッスン』とダブった曲をオミットして1枚に編集したものである。B面が「アスリープ」で幕を開け、「ラバーリング」で幕を閉じる並びも私には刺さるのだが、本来メドレーだったこの2曲がブツ切りになったのはこのアルバムが原因か?
There Is A Light That Never Goes Out
「ゼア・イズ・ア・ライト」は、彼らの作品の中でも人気の高い曲で、『ザ・クイーン・イズ・デッド』がリリースされたときラフ・トレードの社長だったジェフ・トラヴィスは、この曲をシングルとするように強く勧めたという(「フランクリー・ミスター・シャンクリー」はジェフを揶揄した曲らしい:https://nme-jp.com/blogs/21837/)。メランコリックなフルートと流麗なストリングスに乗った「今夜僕を外に連れ出してくれないか....決して消えない光がある」という歌詞に慰められ勇気づけられた人は少なくなかったのではないだろうか。結局バンド側の反対によりシングルは「ビッグマウス」となったものの、フランスではシングルとしてリリースされた。その後1992年になってベスト盤のプロモートのためにシングルとしてリリースされ、25位まで上昇している。このときのCDシングルは2枚組×2セット分売のナンバー入り限定盤としてリリースされ、初出のライヴ・テイクも収録されている。CD1の2曲のライヴ・テイクは、1986年12月12日のブリクストン・アカデミーでの収録とクレジットされているが、「ハンド・イン・グローヴ」は83年6月29日のライヴである(http://www.passionsjustlikemine.com/live/smiths-g830629.htm)。場所は同じくブリクストン・アカデミー、エンジニアはもちろんグラント・ショウビズ。CD2の2~4は、サンディ・ショー(ジャケ写真の女性)をフューチャーしたテイク。
CD1(WEA YZ0003CD1)
1.THERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUT
2.HAND IN GLOVE(Live))
3.SOME GIRLS ARE BIGGER THAN OTHERS(Live)
4.MONEY CHANGES EVERYTHING
CD2(WEA YZ0003CD2)
1.THERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUT
2.HAND IN GLOVE
3.I DON'T OWE YOU ANYTHING
4.JEANE
ウチの学校にALTとして勤務しているイギリス出身の20代女性は、バウハウスもプリファブ・スプラウトも知らなかったが、ザ・スミスとザ・キュアーは知っていた。「母がよく聴いていたから」、と。
ザ・クイーン・イズ・デッド-デラックス・エディション-(完全生産限定盤)(DVD付)
- アーティスト: ザ・スミス
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2017/10/25
- メディア: CD
THE QUEEN IS DEAD [2CD] (2017 REMASTER)
- アーティスト: THE SMITHS
- 出版社/メーカー: RHINO RECORDS/WARNER BROS. RECORDS
- 発売日: 2017/10/20
- メディア: CD
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